かし又修繕その他にずっしりと出てもゆくから、なかなか荒っぽい仕事です。収入だけ云えば二台の車が半月で――達ちゃんが出てから千八百以上らしいのよ。実収とはもとより別です、実収といえば、その三分の一或は四分の一ぐらいなのでしょう。
 私はこの男がいるうちに荷物つくりをして駅まで出そうというのでまとめているところへ二十九日づけのお手紙着、では荷もつと一緒にこの手紙を、と思って、たすきがけで書いているというわけです。
 本のこと分りました。でもあれは、スペインかイタリ系統の名でしょうね。そうだとすれば又そこにあることもあるかもしれず。注文はいたしません。岐|山《サン》なの、成程ね。ヤマでは重箱よみね。中條《ナカジョウ》とよむと同じで。この歌は私には一種の愛着を感じさせます。鼓海なんて、やはり大陸の影響の早かった地名ね。つづみが浦とでもいうのが後代(平家物語時代の命名法)でしょう。
 あの辺が怪談の舞台とは、そうでしょうと思う。一種の鬼気があってね。
 達ちゃんは二十九日にもう大勢いる室に移ったそうです。お風呂にも入ったそうです。
 私は、もう達ちゃんにいつ会うという見当もつかないから、(三十日にもう接見は駄目になりました)一日か二日に立ちます。二日に立つ予定でしたが、或は一日に立ちます。カンヅメをすこしもってかえります。こっちにいて呑気すぎた様子で、些か困ります、あなたが云っていらしたように、本当にそうだったわ式では、これは困りますから。五日に林町で皆立ち、それ迄にいろいろのうち合わせがあります。年を越す用意してゆくらしいから。それもいいでしょう。こちらも私はかえりますでは相すまないから、何かのときどこへ子供をつれてゆくか、どんな準備がいるか、ということなど、すっかりとりきめてかえります。何しろ光のとなり徳山のつづきで、駅近く、ちっとも保障のない位置ですから。何もないときでも心がけはたしなみですから。そんなことかまわずかえったりしたら、あなたが、じゃもう一度行って来いとおっしゃるかもしれないと云って笑ったの。そうでしょう? 段々旅行が厄介になって来つつありますから。不定期は一つもなくなりました。食堂、寝台も減少しました。広島宮島間は汽車のよろい戸を皆おろします。めくら列車が真昼間走ってゆくのを己斐の駅で見て、何かすさまじさを感じました。走ってゆく、感じがね。
 手帖出してみたところ一日に立てば二日(土)につくのね、駅から真直ゆけば十一時前にはつけるのね、二日に立つと四日(月)ね。でもあしたは余り遑しい。四日迄になりそうです。でももうじきだわ、お大事に。二十日の留守よ、珍しい方でしょう、すこしはお見直し下さるでしょうか。

 八月二日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 麻里布駅にて(錦帯橋美観「錦川に架して」(一)[#「(一)」は縦中横]、「建築美」(二)[#「(二)」は縦中横]、錦帯橋「清流に映えて」(三)[#「(三)」は縦中横]の写真絵はがき)〕

 (一)[#「(一)」は縦中横]八月二日十一時(午前)今マリフの駅のベンチで涼しい風にふかれ乍ら、のりかえを待っているところ。
 柳井線マワリの急行でも、この頃は柳井に止りません。マリフまで来なくては駄目。すいた汽車だったら助かるがと思います。けさ出がけにお手紙よんできかせて頂きました。野原のおばさんも見えていました。

 (二)[#「(二)」は縦中横]ここの駅は、目の前がすぐ青田です。その先は海です、実に涼しい風。何と飛行機の音が低く劇しく響くでしょう。
 人絹スフ工場も大きいのが出来て居ります。ここは柳井よりずっとあけっぱなしな気分の駅ですね。ここで〇・一分まで待つのよ。

 (三)[#「(三)」は縦中横]徳山のエハガキはお宮づくし。ここのエハガキは一つの橋をあっちこっちから。この橋はまだ本ものは一度も見ません、あなたは? 宇野千代は岩国のひとよ。ほかに岩国のひともあったようですね、学者で。明朝東京は七・三〇ですが、どうかしら、そちらへすぐまわる元気あるかしら。今のところ不明。おなかが変なものだから。

 八月八日夜 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕

 八月八日  第三十四信
 帰って来たら手紙の紙まだあると思っていたら、おやおや。もう一綴もないわ。そして又この紙になってしまいました。
 三日にかえって、ちゃんと待っていたお手紙拝見して、四日に二十日ぶりにお会いして、まだほんの数日しか経っていないのに、もうすっかりここに納って、うちって面白いものね。
 かえるとき何かかんちがえをして、土曜日だと思ったのよ。東京につくのが七時半だから、もし誰か迎えに来ていたらカバンと岡山の駅で買った白桃のカゴをもたせてかえして、私は一寸池袋から降りてまわってしまおうかしらと考えて居りました。そして鏡を見
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