いわしの本場だが今年は地元の肥料に足りない、何故なら肥料はやすいが、干物にして売り出すとずっとたかくて、静岡辺ではその干物を買ってお茶の肥料にしますから。こういう関係。
下で書いている珍らしさの一つで、間にちょいと稲子さんの『季節の随筆』というのをよみました。そして、あなたにもおめにかけようと思います。何だかいろいろと面白いから。人って何といろいろでしょう。この夏か秋に、秦山房という本やから、私のいろんなノートや断想のようなものを集めて出すのだそうです。そんなものでも、やっぱりひとによってちがうのね。栄さんも近いうちに随筆集が出る由です。こないだ出た『たんぽぽ』という本は余りかきあつめできまりわるいそうですが、送るようにたのみました。
きょうは、朝ひどい雨の中を歩いて来て、(林町から)すこしそれから休んだりして、今の夕日の光が何だか珍しいようです。ラジオで三時頃から天気になると云っていたら、本当に三時ごろから晴れて可笑しいようです。
林町では国男さんが太郎よりも熱心で、小鳥をかって居ります。大きい金網の中にいろいろの鳥が十七羽居ます。私はこんなのを見るといやなところもあります(「伸子」の終りのところ覚えていらっしゃるかしら)。事務所は今、あのひとのほかには一人しか人がいません。あとは女の子のタイプとお使の青年と。こんど、すこし暇を見て、ゆっくり話してみたいと思いますし、人は自分の専門については本当に熱心でなくては駄目だと思います、生活の中によさがなくなってしまって。一心なところがなくて。益※[#二の字点、1−2−22]行きたくない条件ばかりふえて困ります、本当にそう思うのよ。
六月九日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕
六月九日 第二十八信
きょうは本ものの暑さですね。ところが天気予報だときょうから小雨よ。でも、当っているかもしれません、雲は薄りかかっていて、だからこんなにあついのかもしれませんから。暑さにせかれて、紺ガスリ二枚と人絹のサラリとしたシャツをお送りいたしました。セルはもうつきましたろう。
けさ隆治さんからハガキが来て、うれしいお知らせを一つと、上等兵になったことを云って来ました。肩章も、とかいて消してあります、あのひとらしいことね。およろこびのハガキをかきましょう。きっとそちらへも行くわ、ね。
七日のお手紙、きのういただきました。ありがとう、その前の二つへの御返事とゆきちがいね。それにあの二つはおそくつきました、どうかして。
写真週報のこと、私は電話かけませんでした。
森長さんは四谷の方へ引越されたハガキが来ました。そして謄写は皆出来て、多分きょう(月)そちらへゆくとのことでしたから、夜でも電話して見ましょう。四谷の番衆町ってどこいらでしょうね。きっと賑やかなところでしょうね。音羽の家は、空俵屋の角を入り、もとのホーヘイ工廠の山の下で、こわくもあったのでしょう。あの辺はよく泥棒が入りますから。
封緘は、相当ございます、今のところ段々補充して行けば相当大丈夫ぐらいあります、島田へも勿論ねがいますが。
前の二つへの返事で書いたのですが、ガクガク的に云われること、まるで見当ちがいという風に思っているのではなかったのよ、あのときにしろ。心もちだけ勿体つけて云えば、それは笑止千万のようね。坐ってお題目となえてるみたいで。でも、もうきっと前にかいたのがついて居りましょうが、私は、どんなに叱られてもいいから(あなたとして其が閉口、でしょう※[#疑問符感嘆符、1−8−77])ああいう条件だけは、どうしてもどうしてもいやということなのよ。そうじゃないかしら。万ガ一はかがゆかなかったからって、急にその日に現れなければ、その理由とすぐあなたにおわかりになるどんな方法があるの? 私としてそれをお知らせ出来るどんな方法があるのでしょう、だから駄目よ。そんないやなことって困る、と、私がバタバタになるのお分りでしょう? バタバタしているといくらか不条理でしょうから、それは、ユリが、少くともその時間の間に運べるだけ運んで、それで解決されてゆくことなのだよ、という声はよくきこえなくて、そんなら来ないでいい、ということだけがーんと響くのよ。女房の聴覚というものに、ね。だから考えようによっては私のいやがりかたは可笑しいのよ。仰云っているとおりあり得べからざること、ということへのつながりの想定なのですから。前の手紙でお願いしたとおり、私はダラダラしないよう十分気をつけますけれど、その代り、あなたもほとばしり[#「ほとばしり」に傍点]ならないように、と懇願しているのよ。
「いかに生きるべきか」本当にそう思います。小説の方がいいのだけれど、そこにもやはり多くの困難があります。私はエッセイとしてかきたくなくてモジャモジャ
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