感じです、正直のところ。お金があると買うものって大体自分の体のまわり、家の中のもの、とはじまるのが通例と見えるのね、鶴さんどこか通《ツー》な店の帽子のお初をちょいと頭にのせ、稲ちゃんに阿波屋の見事な草履買ってやって、時計買ってやって、なかなかいい正月というわけの顔つきでした。品物にでもしておくのがいいわ全く。
 今年は年越ソバがないので(出前をさせないのです、ソバ組合のキヤクで、大晦日にかぎり。ソバ粉の値上りを見越して、配給をひかえている由)支那ソバの年越しをいたしました。おばあちゃんは八十二歳です、二十九日三十日と箱根へ一家で一泊に行って、おばあちゃんは極楽だったそうです。タア坊にエリ巻の可愛いの、健ちゃんには文具。それが私のおくりもの。
 四時頃うちへかえり、お風呂に入り、それからねて、おひるにお祝いをいたしました。去年のお雑煮ばしの袋のような奇麗なのはなくて、白い紙に赤で縁どりが出来ていて、鶴まがいの字で寿[#「寿」はゴシック体]とかいてある、それに先ずあなたのお名をかき、自分をかき、寿江とかき、恭子とかいた次第です。
 三十一日まで私はパタパタだったから元旦、二日のうのうして、元日の夜は全家八時半就寝で私は又完全に十二時間眠りました。
 林町では一家揃って四十度近い熱を出して風邪正月です。寿江子は二十九日からうちでかぜでこしをぬかして今だに滞留です。
 元旦は窪川のター坊が来て、まア私は何をしたとお思いになって? 羽根つきよ。門の外で。何年ぶりでしょう! なかなか面白くてこれから一人運動につかうかと思います、上を見るでしょう、そして羽子をおっかけるでしょう、それがテニスのように激しくなくてなかなかいいの。タア坊、お恭、寿江と羽子ついていたら、近所の小さい女の子がのぞくので、あそびましょう、と一緒にハネをつき、その子も来てちょっとスゴロク(花咲爺よ!)して、やがて健造と女中さんが迎に来て夕方かえりました。珍しい正月でした。
 丸い私が陽気に羽子をつく姿はなかなか見ものらしうございます、相当なものよ。あなた凧上げお上手でしょうね、ふっとそんなこと思いました。この辺ではまだ凧上げていないわ、風がない日ですからかしら。
 三日だけは、うんとのびるつもりです、つまりきょう一日は。
 それから又例によって〆切りでしょう。これが一区切ついたら、ずっと仕事を整理して、長いも
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