[#二の字点、1−2−22]瑞々しくなければならないのですもの。そうでしょう? 待って居りました、と、石のようなものが出たらお弱りになるでしょう? それでは全くあわれ無惨となりますからね。
 こんな思いを、しずのおだまきの如くくりかえしくりかえしたる揚句にきめるのですから、あっちの暮しで、ユリがお嬢様還元をやるだろうということからの危惧は、本当になさらないで下さい。自分としてこんな気持で動くのに、あなたが元と同じにその点お気づかいになって、いつも自分に対して何か心配していなければならないとしたら、本当に生活は却って不健全になると思います。仰云るように、私は二階がりのつもりでね、一生懸命にすることをやりましょう、それでさえいろんなこまかいことはすっかり違ってしまうのです、私はそれがどんなにいやでしょう。第一あの玄関へ私を訪ねて来る人の心持は、ここの玄関へ来たときのその人の心持とはもうちがうのです。ここの家へ来ると、そのひとが自分の親切は小さいことでもここでは役に立つのだと知る、そういうそのひとの善意が自然に流露することさえ変ります、こんな家にいるなら、自分の思っているこんなことと、よい意味で謙遜したって、そういうことになってしまう。いやね。それを思うと、又、黒煙|濛々《もうもう》です。
 でもまあ、度胸をきめましょう。辛さにもいろいろあるというわけをよく知ってね。一方のいやさをなくしようとして、もっと本質的な、時間の経過によって消されない生活の結実を喪っては大変だという考えからだけ、どうやらやっと肚《はら》をきめるのね。こんなに骨を折ったことは、近年にないことだと思います。
 でも、もしかしたら大局的にそういうきまりのついた方が、あなたとして御安心なところもあるかもしれないとも思えます。それもそうだ、というところもあるでしょう? 生活の複雑さ、微妙さ。ね。いい方法というものが発見されてゆく上の柔軟さを大切ということはよくわかってはいるのですけれども。
 勇気をふるって、よく精励して、居たくないところにいる人間の気むずかしさなどは持つまい決心です。それこそ大負けですからね。ユリがもし精神の活溌さからの明るさを持っているとするなら、それは益※[#二の字点、1−2−22]雲ふかき間を射し貫くものとならなければならないわけでありましょう。(と、自分に申しきかす)
 今年の桜は
前へ 次へ
全236ページ中81ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング