の明るさ芸術の明るさとはどういうものか、ということを書くわけだったのですが、作品に即してかこうと思っていて間に合わなかったのよ。決してサボには非ず。来月かきましょう。小説の明るさ、明るい小説なんて言葉が文学の領域に入っていることさえ変なのだから、そこから先ず語り出さねばならないわけでしょう、だからつまりは今日の生活と文学の論となり、そこまで踏み込まなければつまらない。
『文芸』で評論を募集したらパスカルの何とかデカルトの何とかですって。選者に小林秀雄がいるというばかりでなく、そのことに若い世代の文学的資質の傾向、及び、トピックを見つける分野の狭くかぎられている客観的な事情等あらわれていて、私は大笑いしました、じゃパスカルだの何だのと、選者はおそらく先ずそんな本をよまなければならないのだろう、と。助ったわ、私が選者でなくて。
『現代』はそうして見ると、『現代文学論』の素材的でもあるわけですね。それは知らなかったわ。古いのでも送って頂いて見ましょう。作家がいつしか段々臆面のないものに化しますね、知慧というものは常に或る美しい含羞をもつものです。その新しさ、新しさをうけいれてゆく弾力、自分の未発展なものへの期待、その故に羞《はじ》らいをもっている。(おどろきの変った形として)そのような精神の浄《きよ》らかな命は、いつの間にやら失われて、通俗作家以下のものになっているのね。今は云わば愧《はずか》しいなんていうのは自分の心があからむだけのことみたいなところがあるから、ひどいことになってゆくのでしょう。自分に向ってしらばっくれてしまえば、万事OKであるわけです。
 お年玉のこと、呉々もありがとう、たのしみにしておいで。そういう響のなかに何とたのしさがこもっていることでしょう。たのしみにしておいで。たのしみにしているわ。
 この頃私はいい絵が部屋に欲しくてたまりません。今あるのは、松山さんの近来の傑作と柳瀬さんのホラあの水屋のスケッチ。どうもこちらのボリュームをうけてくれるに足りず。写真でいいからいいのが欲しくてたまりません。そして、もしかしたら林町の古いビクターをかりて来るかもしれません。絵は欲しいことね、私は仕事の間にタバコすわず、お菓子つままず、余り方正でさりとてトランプのひとり並べはいやですし、やっぱり絵なんか見たいわ。丸善のけちな画集すこし買おうかしら、それもいいわ、ね
前へ 次へ
全236ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング