からの手紙これがおしまいよ、きっと島田へかえると又バタバタですから。ではお元気で。

 六月十一日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 山口県島田より(封書)〕

 六月十一日  島田第四信
 寿江子から手紙で、お元気らしいというから安心いたしました。森長さんの方へ届けた書類のことも運びました由。単衣のことわからなくて又セルを入れたそうです。御免なさい。もう二日の辛棒よ。
 習俗というものは実に妙ですね。たとえば男のひとで一人前の活動をしている者なら、法事や婚礼の式がすめばその夜でも立ってゆくことに誰も不思議を感じません。ところが女だと、それ以上に忙しくても、すぐその式の後、立ってかえるなどということは、何か其事に不満でも持っているのかという風に考えて、忙しさとして決してうけとれないのね。実にこれは習俗の力だと思います。てんで忙しいということの実感がないんだもの。だから口実と思う。何て可笑しく又困ったことでしょう。
 私はきのう午後野原からかえりました。お母さん、達ちゃんが二年出征していたのに野原は只一度も慰問袋を送らなかったというお話でした、忘れかねておっしゃるお気持よくわかります、そういう場合の
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