顕治宛 目白より(封書)〕

 五月三十日  第三十五信
 ここで一寸一休み。今かの子の「丸の内草話」というのをよんでいるところです。もう電燈がついていますが、窓外はやや曇った夕方の薄明るさ。きょうはここはすいて居てしずかで、時計の音がきこえます。六時五分すぎ。そちらからずっとまわって来て、日比谷で更科をたべてそしてここへかけて居るわけです。
『ダイヤモンド』六月二十一日とおっしゃったわね、外へ出てすぐたかちゃんに電話かけて(私のかえるのは九時ですから)たのんで、フラフラ歩き出したらおやと思って、まアまだ六月になりもしないのに、と笑えました。きっと五月二十一日のを買うでしょう、それで、『チボー家』のつづき三冊速達いたしました。
 雨が今夜降るという予報です、この風はしっ気を帯びていてそんな風です、達ちゃんの御婚礼の日も降るかしら。雨降って地かたまると縁起を祝います、それもあるけれど、水道の水がたっぷりになり苗代が出来るのは一層何よりです。苗代がこしらえられないと、梅雨になったって植つけに困りますものね、山口、岡山、大変な減収です、植えつけたん別も少くなっています。
 私は、六日にお式が
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