等おもちではございませんでしょうか。又文筆家の最近の支那紀行と云った様な書物も父は読みたく思っているのですが。それからこれは一寸方面ちがいのお願いかもしれませんが、父はでてから少し随筆物をかくつもりの由にて、その資料の一つとして動物の習性のことをなるべく詳しく記した手頃の動物辞典が一冊ほしく、只今父が文通しています二人の医博に先般しらべて頂いたのですけれど、医家も全然動物学とは関係ないらしく、父の満足する結果を得ないで居ります」云々。
  鳥取県東伯郡下北條村字田井  逸子
 右のようです。私から簡単に、ふさわしい本がないので残念ながらお役に立ちかねる由返事してもよいと思って居ります。その方が却ってよさそうね。いつか云っていらしたようなことを答えられても手紙の書きぶりから推してそれを客観的に理解する力はないでしょう。ああ云った、こう云った、それがどうで、ときっと在る光景考えると、やっぱり面倒です。ですから、私からいろいろふれず辞典のないことだけ返事いたしましょう。その方が単純らしいから。お考えおき下さい。本がないというのは、それだけのことですから。又手紙よみ直して、そう考える次第です。
 きょう受とって来た請求書、つづけてかきかけましたが、いつも別封にとおっしゃるのを思い出し別にいたします。さもなければ又折角これを速達にする意味がなくなるといけませんから。
 何だか、あした、あさってで、今年は終りというの、足りませんね。思い設けないことで日をとられてしまったので。でも大体予定の仕事はしたからよかったわね。あれがまだすまないうちだったら又のびのびで閉口でしたが。装幀は中川一政にたのみましょうと思って。いつかは石井鶴三にもたのみます。この間三越で明治大正昭和插画展見ましたときね。平福百穂の美しい原画(菊池寛かの)があったが、それが表紙になったところみると、印刷のエフェクトひどいのよ。金星堂の表紙は本当に秀逸です。生活の感じがあって面白いの。『文学の進路』も松山さんで、大根畑よ。今のところだと一月中に二つ本が出るわけですが。『文学の進路』はもう印税大分くいこみよ。半分ほど。
 ああ、これだけ書いて、やっといくらかたんのう[#「たんのう」に傍点]いたしました。これはなかなか貴重なのよ、仕事の時間すっかり当ててしまったのですもの。だって、ねえ。ああ、まだつづきそう。もう一枚。
 そちらでは、お正月のお菓子いかが? こちらは甘味ぬきかもしれません。中村やは「午前八時にヨーカンを売リマス」ですって。私は大変くいしん棒ですが、どうもお菓子のために朝からかけまわる勇気はありません。お正月の東京と鮭とはつきものなのに、今年は鮭もないのよ。うちは組合でうまくなさそうな鮭買いましたが。ミカンはあるの。リンゴと。お互に似たようなものでしょう? そして、私は女房心で心痛しているのよ、シャボンはどうなるのだろうと思って。あなたの夏はせめてアセのおちるシャボン、泡の立つシャボンあげたいと思って。
 五六年ばかり前、上落合の時分、百円とすこしで暮していました。不思議のようね。今の物の高さ。家賃が今のままで本当に助ります。この頃はよくよくのことでなければ円タクにのりませんから。五割ましよ。一円メーターに出ると .50 足すのよ、林町迄 .80 だったのが 1.20 ね。ですもの。のりません。
 林町の連中も一家|眷族《けんぞく》で市電よ。これは私は大賛成です。特に太郎が大馬鹿三太郎と改名しないために、大賛成です。来年小学校。これも近所の小学に入ることになります。これもよろしい、と思います。省線はこの頃一種荒い人気でね。私はいつも迚もおとなしく隅に立ちます。従来市外にひっそくしていた狂犬属が、時候の加減で真中へ出入りをしはじめたことからでしょうね。お正月の三※[#濁点付き小書き片仮名カ、21巻−232−12]日はじっと家居いたします。きょうその小さい女の子が茶色の鼻の頭の黒い小熊をくれました。大変可愛い小熊です。お恭ちゃんがスウィートピイをさしておいてくれました。なかなか皆其々でしょう? マア、もう一杯よ、何て小さい紙でしょう! 書くにつれてちぢむのよ、いやね。では本当におしまい。

 十二月二十七日朝 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書 速達)〕

 十二月二十七日
 これは請求書だけの分です。
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六月分 逸見上申書 六〇枚 四通  三・一八
 〃   同 四九六枚   二通 二七・二八
七月分 木俣鈴子上申    二通
                 一四・八五
    公・調       四通
九月分 宮本顕治 公期日変更願その他 二通 一一・九九
   ほかに、七月十六日づけ請求で、その中重複している分をさしひいて。
    木島
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