。見くらべて、それで何か学べるというようにしたくて。七十六頁ですね、『哲学年表』が。その位でしょう。これはきっと婦人作家のためのなかなかいい激励でしょう、だって、どんな仕事して来ているか一目瞭然となるわけですものね。その中には、詩集、歌集、感想集なども入れるつもりです。
 明日は、父の五回目の命日です。多賀ちゃんをつれて青山へ行って、どこかで林町の連中と落ちあって夕飯をたべることになりましょう。林町はああいうガラン堂だし炭を不足しているし、そのさむさと云ったらないのですって。この頃一寸行く気がしないようで。さむいのよ、食堂椅子にしましたけれど、ストーブ倹約ですから。小劇場にいるように落付かないの。お正月に一寸つづけて行ってこの頃すっかりごぶさた。
 可愛いふっくり美人は、頭のおできがひどくなってホータイですって。可哀そうに。どうもすこし反応が鈍い方だと云って居ります。せかせかした娘よりはいいでしょう。
 太郎はあいかわらず。壺井さんのところの妹さん母子、越後の高田へゆく筈のところ風雪ひどく汽車不通。そのため大阪の方は電燈が不足で、大阪高島やは、百匁ローソクを何百本とか並べて商売をしている由。東京でもローソクは大事です。(ウチにもあります)
 明日青山へ出かける前、栄さんに眼医者へつれて行って貰います、私たち二人。多賀ちゃんのを念のために診て貰ったら先天性母斑というのですって。ホクロとちがう由。それは放っておくと、いくらかずつ肥大するたちのものの由。自信をもってキズにしないでとってぬって(くけるのですって)あげるが、一つでも線にのこるとその細胞から又出来るからレントゲンでやくがいいとガン研究所へ紹介されました。そのお医者が病気、めったな人にひどい光線あてられて、こんどは視力がどうというのではこわいから、明日二人で行って、お礼やら何やら。ケイオーの桑原さんはこういう風に云ってくれませんでした。医者が社交的だなんて、何てバカらしいことでしょう。私はこれからこちらの人のところへゆきます。
 本当に御気分どうでしょう。メンソラを鼻の中におぬりになると幾分かわいた息が楽のようですけれど。お大切にね、呉々お大切にね。

 二月二日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕

 二月二日  第一〇信
 一月三十日づけのお手紙一日に着きました。二人宛にめずらしいこと。どうもありがとう。二十四日に下すった電報勿論頂きました。二十四日に手紙かいて、それを出しに行っていた間に電報いただいたのだったと思います。きっと又その後すぐつづけてかいた手紙御覧になっている頃でしょう。私はつづけて一つと、あと二十九日と、かいて居ります。そして、これ。明日は父の命日でというようなこと二十九日にかきました。そちらのは二十七日づけ下すったのが三十一日についています。
 さて、せめてバラやカーネーションが美事だったとはいささか心なぐさむことだと思います。よかったこと。でも玉子がお金とはすこしつまりませんね。だって、お金では、ね。私の素志が実現されようもないのですもの。やっぱりないのでしょう。そちらではあがれていますか? こっちは市場で午後四時ごろ売るのですが、前から行っていてうまく買わないとすぐなくなります。随分玉子たべません。たまに多賀ちゃんが買って来ると私がよろこぶので、子供みたい、と笑います。あの子は特別よ、だって玉子たべあきて育ったのですものね。今は野原には一羽も居りませんが。鶏舎がまことに堂々たるもので、そこを改造して朝鮮人工夫の家族がすんでいます、そして冨美子がそこの子とよく遊んでやっています。四日には、多賀ちゃんも行きましたから。
 風邪ひいていらっしゃらないのは本当に何よりね。それだけ考えても、遠出しないでいらっしゃる報は十分だと思わなければならないわけです。本当にそれはうれしいと思います。二十七日のお手紙に少量血をお出しになったとありますが、あれは二十二日より前ね。(ああ二十一日とあるわ)風邪と道づれではなかったのね。それならば結構でした。私はかぜがお伴かと思って。本年はすこしわるい人は皆苦手の由です。喀血がふえているそうです。二十三日の七・四はある方ですものね。こうやって体のことを書いて下さると、私は気が休まるの。あなたが知らして下さらなければ、私はまるで見当さえつかないのですもの。その心持は不安です。こまかい様子話して下さると、ほかのいろいろの気持も、それを中心として、合理的に落付くのよ。おわかりになるでしょう? だから書いて下さることは、私の健康のためにも必要なことです、この頃ではそうよ、全く。さもないと、何だか、又体じゅうが小枝の折れたもので、出来ているような気持になったりするから。
 シャツは、わかりました。手袋、もっといいのを上げたかったけれ
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