りますもの、ね。そして、たとえば、前の方でそれについてかいている評論の筆者とのことについて考えてみても、友情そのものがやはりひろいというかいろいろまじっているし。でも又ふっと考えて、たとえば、同僚感という文字があの文章の中に一つもつかわれていなかったということについて考えます。そのことで、このお手紙に云われている点は(感覚というものの根源の微妙さとして)あたっていますね。それも面白いと思います。なかなかギロリはつよい光度をもっていて愉快ね。
 新しい読書は、大変活々とした感情でよまれます。もとよんだときとは又ちがいます。〓期としての生々しさがちがうから。五五一頁ある本です、よんでいるのは。
 文学について、国民文学ということも、私の考えている或は感じていることの健康さが一層明かに感じられるのですが。
 毎日の早さどうでしょう。
 きのうは、『漁村』という全国漁業組合の雑誌に婦人のための文章をかいて、漁村の婦人の生活にふれたものをかいてみるために、いろいろしらべて、年かん類勉強したら、日本は四面海もてかこまれし国なのに、漁村生活の調査が不十分にしかされていないのには何だかびっくりしました。すこしは、それについて知りたいと思いました。生活力がないのではないのですもの、富山のかみさんたちの例を見たって。海と女とのいきさつは、海女に集約されていますが(これまでは)、随分いろいろの問題があると思います。農村の女の辛苦とは又ちがったその日ぐらしの不安が時間的に農村の女より女にひまがあっても成長させないモメントとなっていると思いました。漁村の女について私たちは知らないことにおどろきました。
 島田からのお手紙で、母さんが御出勤ですって。いいわね。午後二時間ほど友ちゃんと交代ですって。なかなかいいわね。お母さんのために大変ようございます。では明後日に。

 十一月二十二日夜 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕

 十一月十三日  第七十九信
 今、よんでいて大変面白く思ったこと。イタリーの歴史ですが、一四年において、そこは仕合わせな例外としての一つの力を保っていたものが、その力を失って行った過程というもの。この二十五年間の世界史というものは実にウェルズなどのよくかくところではないということを痛感いたしますね。
「ロマン・ロランの会見記」が(山本実彦)出ています、『文芸』に。ロマン・ロランがもし本当にそれらの言葉を云ったのであったら、やっぱり歴史の進みというものは、ある巨大な価値をもったものの、命数をもつきさせる時期をもつものであるということを感じなければならないと思います。彼等夫妻がある都会のホテルに滞在していたとき毎日細君に花束を届けてよこした一人の人間を、そのことからいい人間、チストカが意外ないい人間という風に判断するとすれば、それは最も凡俗な女流作家或は文学少女の人物評価の基準でなければなりません。現代という時期があらゆるものの評価のよりどころを狂わせていることはどれ程の激しさでしょう。第一次の大戦より確にその点もすすんで居りますね。それはそうだわね。だってあの頃ヒヨヒヨしていたムッソリーニが今日は三巨頭[#「三巨頭」に傍点]の一人なのですものね。だから二十五年は面白いと思います。
 ハハアとあなたはニヤリとなさいますでしょう、「ユリはわかるものを読めば喋り出さずにはいられないのだナ」と。そして、これをかいているのは二十二日なのよ。一週間も経ちました。その間にいろんなことがあって。
 二十日までに『文芸』の方をすっかりまとめてしまおうとして熱中しているところへ、女の作家が文芸中央会というのに参加するためにどうこうと長谷川のおばあさんや間宮君にうごかされて度々来て、私はそういうことには現在自分として進まないので消極ですが、はたでドシドシつくって行ったり、そのために外出もしたり。おまけに、物干の木がくさっていて、布団をとりこもうとしてふみぬいて、片脚をおっことしてすっかり紫色にしたり。
 お手紙十四、十五、十六、十九日、こんなにたまりました。何と珍しいでしょう。
 順ぐりに御返事申します。
 文学史のヒューマニズムについて、大変こまかくありがとう。ここについて云われている点は、全く正当です。そしてね、私にしろ、それを考えていないのではないわけなのです。抽象された人間性などというものはないことを。文学に人間の息を求めるという表現は、生産文学、農民文学などに対し、低俗な文学の手段化の傾向に対し、作家が内面テーマにかかわりなくお話をかいてゆく傾向に対し、生きている人間、生きている現実において人間をかくという要求の中へ、かくものの心持としては非常にいろんなものをこめて云っているわけです。
 現代文学に二つの流れのあるということについて。比重は
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