つかめなかったように所謂論理的でないところがありますから。自分たちの生活の実感から私には歴史への感覚がめざまされているので、その自然発生のつよさは、感情の内部で一つのコンプレックスとなっているほど(前の手紙にかいたように、ね)でしょう? 時代を経てゆく一人一人の姿は何と複雑でしょう。
 そしてね、あなたはお笑いになるでしょう。あの本の筆者に対して、多くの人は魅力がない、肉体がないというのよ。そう評するものはと云えば、論理的推論にさえ堪えない存在であるにかかわらず。何と悲しい喜劇でしょう。
 その人に即して云えば、論理的な合理に立とうとせずにいられないだけ前進性をもっていて、その半面に真の歴史的分析は自身の生活に対してさえし得ないものをもっている。今日、ゴに熱中して徹夜していられるところがある。そういうところへの悲しさが、私の場合では又コンプレックスのかたまりを大きくしてゆくというようなわけね。(時代のありさまとの関係として)
 いろいろと実にうれしい。わかって。自分は何と自然発生でしょう。この手紙一つをしみじみと眺め、私は自分の内がモヤモヤしていて、力が弱いのをびっくりするようです。いろんなとき、どうも其は変だ、という感じをなかなかリアリスティックな根拠で分析したり構成したり出来ない。
 勉強というもののされかたをも考えます。私の場合は、自然発生のものの整理、それの混迷からの救い出し、生活的成長のため、コンプレックスを、歴史性のなかで解いてゆくために不可欠であり、他の人にとっては、論理の展開の筋を見つけ出すために読まれずに、自分の生活へ切り込む刃としてよまれる必要もあるでしょうし。
 きょうのお手紙のなかにあることは、この数回からの私の理解に瞳を入れられたところがあります。私はね、たとえば「論理的なものはとりも直さず正統な歴史的見かたしかあり得ない」という単純な確信に立っていたから、逆に、歴史性に或る程度立って云っていられることの内にある論理的なものと歴史的なものとの分裂の誤りを見つけ出されなくて、ひっかかるのです。歴史性の小さい入口から、誘いこまれて全体を肯定したりしてしまう。よくわかるでしょう? 自分のうちのモヤモヤというのはそこから発生するのです。
 本当にありがとう、ね。段々たのしくなって来ます。勉強してゆく愉快な思い、新鮮なよろこびが湧き立てられます。
 前の手紙でかいていた歴史的背景、歴史的な根拠をもつ心理的コンプレックスの、文学としての見かたもゆたかにされます。たとえば中野のスタイルと自分の制作態度とのちがい。それとの関係で云える伊藤整たちの登場人物(余計者の自覚によりつよく立ったあげくの積極性と平野の云っているところのもの)との関係など。
 友情についての話。あの中で、私は友情一般が云えないこと、仕事のなかで人生への共通態度は最もはっきり現れるのだから、その態度如何で、友達になり得る人なり得ない人との区別が生じること(つまり私的生活の中での友人になり得ない人でも公的場面でつき合ってゆく事務上の接触をもつことはあり得るのですから)、そして、一般の若い女のひとたちは、共通な人生への態度を感じると、そこにすぐ恋愛的なものを描き出してその曖昧なところをたのしむような傾向をもっているから、それに対して、私は特に友情と恋愛の感情が、女として区別されて自覚されなければ不健全だと強調しているわけだったのですが。その点不明瞭ですか? あれをよんだ女のひとの何人かは、異性の間の友情が、ああいうものであってはつまらない、と云ったそうです。その位、女の社会感情は狭いのね。公人としての同僚感と、その同僚のうちから友情が見出されるということは直接同じだとはしていないつもりですが。同じでないからあの文章の中で、同じつとめに働いている同性や異性の間で、同僚として顔をつき合わしていても、ちがった利害の対立におかれる仲間の方が多い、その中で、共通な生活態度が見出されたとき、それは友情となるが、それがすぐ恋愛的なものと混同されて、友情そのものとして成長しにくい場合が多いということを主張しているわけなのですが。きっと整理が不足しているのでしょうね。もしそういう印象を与えるとすれば。同僚感というものを、生活態度の共感という範囲に限ってだけ云われなくても、それは自然でしょう? もしそう云われれば、その同僚感において友人として必要な人、そうでない人という区別も生じないわけですから。同僚感というものは友情より広汎な、内容の錯交したものでしょう。
 しかし、これについて書かれているいろいろと複雑な心持、ヒントは非常によく感じられました。その点で、この文章をとりあげて云っていらっしゃるいろんなことも実生活的によくわかったと思います。すでに現実にいくつかの経験があ
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