ましでしょうか。どうかそうであるように。
 四日のがお金でしたってね。では十五日の玉子もお金? 玉子でなければいやですのに。四日は、しかし正月の間で品が一層揃わず、そんなことだったのかもしれません。
 御用の方からシャツのことわかりました。すぐ今ほして送ります。地図もわかりました。『朝日年鑑』の新しい分はいかがでしょうか、送りましょう、ね。
 雪も雨もふらないでも、何と何日もかかることでしょう。てっちゃんの手紙、僕は苦笑とあって消されてあるので笑いました。あのひとは、ここに云われているとおり、苦労の時期をまともに生きようとする作家として見る心持や、あなたへの親密さや、そういうものでやっぱりいくらかはあなたに安心をおくることになるだろうという心持で、作品のことなどかいてあげるのね、きっと。
 あの文芸批評について、私の感じたことかいた手紙はもう御覧になったわけでしょう? 大分前ですものね。仲々分らない人が多いということを全く同じに感じました。そのわからなさの範囲のひろさと云ったら! 今年の仕事への祝福をありがとうね。量質ともに粗末でないものを生んでゆきたいと思います。
 それにつれて、いつぞやのお手紙の中にモチーフが豊富になるように云々と云われていたことについて、それがモチーフと云われている味の深さをよろこんでかいたことがあったでしょう? モチーフとテーマということの今日の文学でのありようは風変りです、つるさんの評論集の中に、このモチーフについて志賀が、テーマはあってもモチーフが自分のなかに生れなければかけないというのに対して、横光は芸術のモチーフというものを知らないのね、自分の感覚として持っていないで、世界像を整理しようとする意欲としているのは面白いこと。この二三年はこのモチーフを知らず意欲を知っている連中の仕事師ぶり、生活ときりはなされた題材を平気でまとめてゆく意欲がバッコしているわけです。モチーフというものが、生活と芸術とへの全く積極的な態度なしには生れないというところは面白いし。又自分としては過去の何年かに書いたものの、その点モチーフの的確さの点でいろいろ省るところがあります。又そのことばではなくても、あなたがいろいろ云っていらしたことについて。モチーフのゆたかさは、生活感(芸術家なら当然そこに芸術家としての勘も入っているものとして)の鋭さ深さ、生々しい柔軟さですから、なかなか面白い。テーマが、題材との関係で、積極性を求めて云われたとき、このモチーフにふれて、芸術的分析を十分にして云われなかったことも思い出します。当然のこととしてのみこんでしまっていたと思う。本来的に会得されていたものとして。でも、私一人のことについて考えて見るとテーマとモチーフのことは微妙で、たとえば「小祝の一家」ね、あれなどモチーフがはっきりしている部だけれども、でも、やっぱりもう一層自覚されていたら、もっと作品の上でのふくらみ動き流れるもののたっぷりさがあったと思います。このことは、大変大変面白い点よ。私はモチーフなしにかける作家ではなく生れついているわけですが、テーマのとらえかた、とらえられたテーマの正当性、というか、そんなものへのよりかかりが或ときは生じていたと思う。失敗の部に入る作品は、大体こういうところにその原因があったとも思います。テーマはその骨組みは頭脳的なものでもとらえられるのですから。
 いろいろと目を白黒させないように、などと! ああわかったわ、あなたは、すこしユリがのぼせて目玉クルクルさせて、そういうところ御覧になりたいのでしょう? ところが、これはあにはからんやというところです、決してソワつかないのよ。泰然としてね、それは正月でしたからすこしよふかしもいたしましたけれども、大体は早ねで、本よみも、すてては居りません。いずれ、表を。と云って礼儀ぶかくひき下るのよ、大した奥様ぶりよ。フーンでしょう?
 多賀ちゃんは、年若い仕合わせに、なるたけさしつかえのないところへは一緒に出かけ、変化も多く暮して居ります。大島のよく似合う着物羽織一組買ってやりました。これは知っている人がお払いはいつでも、チビチビで売ってくれるのです。お金で月給やるようなわけ合のものではありませんから。ところが、表は出来たが裏がないのよ。赤い赤絹《もみ》の布がどこにもないのです、織元でひき合わぬ由。三月になって洋裁がはじまったら多賀ちゃんとしての一日の割当が出来ますから、そしたらそんなに一緒にも出ません。
 富ちゃんの年賀電報、そうでしょう? それに、最大の謝意ということ、よくわかります。
「北極飛行」本当にすきです。幸福ということは、どういうことかなどとよく論議されたが、主観と客観の幸福がああいう形で一致し得るということは、何という明るいよろこびでしょうね。多く
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