ろこびと誇りとをもって、二人の作品としておし出さなかったでしょう。何故かの子作にしたのでしょう。一平は、そういうかの子を又描いていなかったのでしょうか。
 私は川端や何か芸術がわかるというひとがこの点にふれて云わないのが妙で仕方がありません。世俗の礼儀はすてた世界だのにね。俗人なのね、彼等本心は案外。
 きょうこれから、友だちのことをかくのです。私は今有名な友達たちのことばかりはかかず、小学の時代に仲のよかった女の子のことからかきます。その子が芸者になりました。その後どうしたでしょう。
 それから女学校時代の仲よしの四人組。その後の〓〓生活の自主性のなさからのはなればなれの工合。〔約三字分不明〕一番はじめての小説を下がきを終った夕方、じっとしていられなくて馳けつけたのは、その四人組の一人の娘のところでした。そのひとは、後に、親たちを安心させろ、という手紙をよこしました、私の親たちは安心していたのに、とことんのところでは。いやね。それからあみのさんや何か。それから又今の友達たち。いろいろの時代と歴史が反映してゆく、そのままに描いて見ようと思います。こういう風にまとめてかいたことはないからきっと面白いでしょう、自分にとっても。友だちたちのなかには、友だちの男のひとたちも入れましょう。私たちが友だちという場合の自然なひろがりですから。
 友だちと云えばてっちゃん、火曜日にそちらへゆきますそうです。明日そんなことお話しいたしますが。
 詩集の話、この間の「春の物干」という題の、やっぱり面白くお思いになったでしょう? ああほんとに、そういうのもあったね、とお思いになったでしょう、「窓の灯」というのもあって私は屡※[#二の字点、1−2−22]思い出します。その窓に灯がついていないとき、がっかりした心持、というかき出しの。あったでしょう? 今に灯かげは外へまで溢れる季節になりますね。では明日。

 三月三十日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕

 三月三十日  第二十四信
 きのうの朝おきて何とうれしかったでしょう、風がなくて。三四日お話のほかでしたね。春はこれで閉口です。
 きのうときょうは多賀ちゃんのお使者で。私が無理をしていたのではなかったかとおきき下さいましたって? それからきょうは大変御機嫌がよかったって? いろいろそういう話、何度でもくりかえしてききそうになって、ああもう四度目ぐらいだ、やめとこう、と思いなおす次第です。
 きものの話ね。長襦袢がもうじき出来ます、昔、アキスにとられておしまいになってから、以来は季節ぬきのものを着てばかりいらしたから今年は、すこしまともなのをお着せいたします。さっぱりした落付いた、いいのよ。私がそんなもの選んだり縫わせたりするのは一つのうれしいことなのだからもうすこし待って着て下さい。四月五日迄に届けますから。
 本のこと、きょう、やめていいと仰云ったの一冊十五円だってね。あのリストの皆注文してこれも二冊云ってあったから、マアとびっくりして早速とりけしました。
 揃ったらおっしゃった五冊だけそのようにいたします。
 ホトトギスというものは、一声をききつけて戸をあけるともう姿は見えないというけれど、一度その空を飛んだことだけはたしかです。うちのウソは行こう行こうと鳴くばかり、ね。洒落にもなりません。
 笑っていらしたって。そうきくといくらか安心いたします。
 日当のこと、もうじきわかりますが、旅費としてそちらへ行く分なんかないのよ、そうらしい様子です。はっきりしましたらいずれ。
 お手紙はまだ着きません。ついたら、ああ御苦労さま、と云ってやりましょうねえ。本当に。この近いところを十日以上かかるためにはどんなに手紙もくたびれるでしょう、可哀そうに。
 けさは、私は妙に眼が充血して痛んで、すぐ仕事しようと勢こんでいたのに、多賀ちゃんを出してから、リンゴをすって、それをガーゼにつつんで昼まで両方の眼をひやしました。昨夜眼を洗いたいナと思ったのにホーサンがなくて、けさはもうそう。風がひどかったためでしょう。もう大体大丈夫。しかし今夜はホーサンで湿布してねます。今、一つ書き終って、河村さんや何かにハガキかいて。――そう云えば中村やの話、おききになりましたでしょう? ひどいわね。それに、ああいうところでものを買うのは女が多くて、女の盲信的なところが又いかにも郊外住居の中流人趣味があって、あすこの混雑には反撥するものがあります。※[#「凩」の「木」に代えて「百」、第3水準1−14−57]月の何かを見つけてお送りいたしましょう。予約注文でおまんじゅうは十ヶですって。でも、私はニヤリとするのよ、ブッテルブロードは、あれはうちで美味につくることが出来て、ね、そうでしょう、胡瓜のきざんだののせたのなど、ね、あんな
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