もその確乎さや構成そのものが、人間のピンからキリまでの感覚のむき出しの敏感さにみちたものであったらどんなによろこばしいでしょう! そういう作家こそ文学の歴史の上向のために寄与し得る作家です。
十七日のために大変いいものをいただいて、すまない位だと思います。
丸善へ行ったとき文芸評論のところ見ていたら『六つの肖像』という女のひとのかいた本があって、エリオット、ド・スタエル、マンスフィールド、オースティンその他の伝記があったの、十五円。いつかやろうとしている仕事のためにふと買おうかと思って、なかをすこし見たら、こまかい普通の伝記で、マアそれでもいいけれど、と十五円がおしくなっておやめにしてかえりました。ジョルジ・サンドなんかかいていないのよ。でもすこしほしいところもある。今ふらふらしているところです。アメリカの婦人作家、いろいろあるのでしょう、シェリーの研究で有名なエミ・ローエルという女詩人(大きい大きいお婆さんでした)をはじめ。図書館にない本やはり集めなくてはダメでしょうね。
十一日のお手紙におしまいの「よろしく」という文句。ヘロインたちによろしくということば。ちゃんとつたえられました。
この間好ちゃんもいろいろ工夫をこらしていい生活をしているという話。私にはしみじみと忘られません。いつもそのこと思うのよ。いろいろの折の美しいしおりのある態度と思い合わせて、工夫をこらしという表現も真実こもって心に響きます。大変よくわかって。でも一つ一つ具体的な細部は分らないというところに何という感情があるでしょう。深いニュアンスがそこにあります。
好ちゃんがいい感受性をもっていて、戯曲の「谷間のかげ」をよんだときの亢奮したよろこびの表情をそれにつけ思いおこします。若々しい顔立ちが精神の歓喜のために引きしまって而も燃え立つ表情をたたえているときの輝やかしさ。精神が微妙に溌溂に動いて、対象のあらゆる文学的生命にふれ、その味いをひき出し、のこる隈なくという表現のとおりにテーマの発展を可能にしてゆく理解力。
本がそのように読まれるよろこばしさで呻かないのは不思議と、よく話しましたね。字というものは、何と多くのもちこたえる力ももっているでしょう。其を思うと可愛いことね。感動のきわまったとき私が膝の力がぬけるとき字はやっぱりそれをもちこたえて表現してゆくのですもの。字で表現される文学
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