っかりした本が出来たらと思います。文学としてしっかりしていて、本のこしらえとしてもチャンとしたの。
 今にきっと、私の手紙はその小説の誕生についての話で一杯になることでしょうね。先ず、あなたにそこに現れるすべての人物を紹介したいわけですから。
 仕事の配分と時間のこととを考えると、ユリもそうのんべんだらりとしていられないね、とお思いになるでしょう?
 私は、この長篇にかかる前の勉強としてモチーフということについて大いにこねるつもりです、文学上の理論としてというより、作家として自分の内部的なもののありようを見きわめるという意味で。私たちの文学において、このモチーフが気質的なものでもないし、主観的なものでもないし、しかも生活の中で生活されたものから生じるというところ、そこを自分に向ってマザマザとさせたいわけです。鶴さんの本を殆ど終りますが、六芸社の本を出してよみ合わせて様々の感想にうたれます。六芸社の本のなかで、小説的現実と云われていること、描写で追求しなければならないと云われていること、いろいろ又味い直し、この筆者の芸術的感情の本ものであること、しかし歴史の中では、いつも全面を万遍なく云い切れないということなども感じました。作家として、この筆者の芸術性を具体的に示す責任を感じるわけです、いつも感じること乍ら。ではどうぞお元気に。二十三日にね。

 一月二十四日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕

 一月二十一日  第七信
 本当は仕事しなければいけないのですが。ね、こっちのペンをもっているくせに。御機嫌はいかがでしょう、寒さもこんなに乾くとあらっぽくていやですね。こんな冬にはやっぱり、春のような冬とは思えないでしょうね、きっと。
 ゆうべも、二十三日にはどうなさるかしら、そして自分はどうしようかしらと思いました、夕方からは座談会があって出かけます、花を朝たっぷり買おうと思います、それからそちらへ行って玉子と花とをあげましょうね、そして、どうしようかしら。あなたもそうお考えですか。それとも考えるまでもなく、という条件でしょうか。こちらには、そこがよく分らないのでどうだろうと思うのです。無理をおさせしてはわるいし、いやだから、玉子にして置こうかとも思い、或は、とも思い。でもあなたのことだから妙な義理立てはなさりますまいから、という結論に達しているわけです。それでい
前へ 次へ
全295ページ中20ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング