ました。昨夜は早くねて、きょうは大丈夫。しかし、余り暑いと頭の中が真白くなってボーとすることね。
 野原から冨美子は来ますまい。きょう、お話しする家の事情で。
 家をかりて勉強するというのも、第一家不足ですから適当なところないし、一室かりても女は、やっぱりキュークツなところもあってね。それに私はテーブル、椅子もちこむのも面倒で。フーフー云い乍ら結局この二階で暮すでしょう。
 新しく来た恭《きょう》子という娘は、きっちりしたいい子です。真面目な、丁寧な、いくらかヤスに似た俤のあるいい子です、心に厚みがあります。これは私が飢えていたような味ですからうれしいと思います、家も清潔になりましたし。だから暑くても辛棒出来るところも増しました。
 暑いときは、ひとがよそへゆくから、きっとお客もへるでしょう。避暑の習慣なんかないからその点は平気です。私はつくづく、お茶がのみたいときのめるのに何をか云わんやと思うのです、何だか私の気持の標準はいつもそこにあるから。
 おや、風が通るようになりましたね、
 多賀子が病院からかえって来た(レントゲンの日で)。切腹居士どうしたかしら。
 切腹居士と云えば井汲さんの旦那さん、重役になって、そういう生活から又この頃ヤーエンコでさぞうだっていることでしょうね。赤ちゃんを生もうとしている花子さん、眉毛つり上げているでしょう。
 金星堂、紙が手に入らないでまだ印刷にかかれないのですって。文芸のものはそうですって。科学のものは先にゆく由。文芸が急を要さないもの、贅沢品の一部と思われるうちは文化も稚い足どりというわけでしょう。
 十九日にかいて下すったお手紙、何だか楽しみです、きょう笑っていらした様子から。
 これから森長さんのところへ行って来ます。ついでにこれを出すために、一区切り。表は別に。
 呉々も暑さをお大切に。横になっているのが苦しい夏は休養もむずかしくてね、夏は本当に心がかりなときです。

 七月二十四日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕

 七月二十四日  第四十七信
 きのう二十二日朝のお手紙――夏寒物語の分――がついたら、けさは十九日の分がつきました。面白いのね、この頃は。よく、あとの雁が先になります。ついた順に二十二日づけの分から。
 やっぱり、あのチェックは夏寒なのかしら。それは一応紳士道から云えば、チェックつけるということ
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