奇妙でした。その間にお嫁さんは立って黒の裾模様を訪問着にかえ、すこし坐っていて又立って、こんどは友禅のものにかえ、又すこし立って別の着物にかえ、そしてこちらの親族の一人一人に「不束《ふつつか》な者でございますが何卒《なにとぞ》よろしく」と挨拶してはお盃を出します。お酌をするの。(私はこれを達ちゃんの出征のときやったのよ)
 お嫁さんは本当に達ちゃんには立派すぎる位です。田舎者などと云うけれど(島田では大変町方と思っているのです、自分の方を!)それどころか悧溌そうなふっくりと初々しい可愛いはっきりした娘さんです。十時すぎ一つの車にお母さんと若夫婦、かみゆい、次の車の私、河村夫妻、富ちゃんとのってかえりました。近所の人が見物に出ている。井村さん、岩本さん、徳山ゆきの十時五十何分かにのりおくれて次は二時二十五分とかで、店へ一寸ふとんをかけてごろねをし、私たちはお茶づけをたべ、たっちゃんたちは二階へ彼等の巣をかまえました。
 が、巣と云っても、本当にこういう形式のお嫁とりは気の毒ね。私何だか可哀そうで、二人きりにしてやりたくて五日の日に「二人を一寸旅行に出してやったらどうかしら」と云ったの、そしたら、私がおなじみになるように「一度そんな話があったのだけれど未定ということにした」というので「そんなこと全く意味ないから是非やりましょう」と電話かけて、宿屋の交渉してやって、湯野という温泉へお里がえりからまっすぐ出かけることになりました。
 七日にはお嫁さんは丸髷にゆって、又お式のときの衣類をすっかりつけて、お母さんもその通りで、組合[自注2]の家々を挨拶してまわりました。
 八日に十時から、こんどはあたり前の髪と訪問着とでお里へ夫婦、母上とで出かけ、十二時何分かで戸田《へた》まで立った由です。
 まあどんなに吻《ほ》っとしたでしょう、ねえ。六日の夜お式からかえって来て、達ちゃんが二階へゆくのに、はずみがなくてバツがわるいだろうと思って、「さあ、これをもって行っておやり」と私たちのおくりものの真珠の指環をもたせてあげてやりました。丁度薬指にはまりましたって、太い方のを買って、どうかしらと心配していたのによかったと思います、中指に入らず薬指だというのも可愛い。そんなにむっちりした娘さんなの。大体大変可愛いひとです、達ちゃんより頭脳は緻密です。何しろ女学校の優等生ですから。いかにもそれ
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