とった「チボー家の人々」の第六巻です。白水社から送ってくれてずっとよんで居りますが、少くとも主人公ジャックは真実をもってかかれています。「ジャン・クリストフ」なんかも今は、又別様の面白さでおよみになるでしょうね。こんど御相談しましょう、どっちかをおよみになったら? 人間生活の奥行の深さ、向上してゆく光景を悠々と描き出したものが、という御希望に、それはこれよ、これなのですけれど、と自分のものを示せたらどんなにうれしいでしょう。
人間生活の奥行の深さ、この表現は非常に豊かで含蓄的で、そして私のリズムに響きをつたえずにいないものをもっている。深い奥行のなかに、生きているもの、脈動しているもの、人間の行動の真の動機ともなっているもの、そういうあらゆる生々しいものがあるということは何とそれをまざまざと芸術に表現されてあるものとして読みたいでしょう。そのように表現しているものとしての作品をかきたいでしょう!
この正月に書いた「おもかげ」と「広場」とは、そういう人間の一つの姿と歌声ですが、それはひどい風に吹きちぎられて途切れ途切れに、しかも熱烈に響く歌声のようなものとなりました。
この二十六日づけのお手紙は、いろいろ大変面白うございます。ちょいちょいしたところが、おのずからちがったトピックのちがった語りかたとなっていて。わきに坐っていて、よそのひとと話していらっしゃるのをきいている面白さ、その面白さです。小説でいうと、題材が多すぎない程度でかかれている作品のゆとりのある面白さとでも申しましょうか。私はよくばりでしょう? オヤオヤと笑っていらっしゃるでしょう。でも私のこのよくばりは、自然なものとして自然承認されているのだから、相当でしょう? 私への一番いいおくりものだということは、国男君でさえ万々承知というのですから。
すっかり目白のところがきのが、一通あります。てっちゃん目玉クルリとさせて、肯いている。そんなものね。
スフ足袋物語、つめたいようでいつの間にかぬいで毛布に足を突こんでいらっしゃったという話。
覚えていらっしゃるでしょうか、いつか夜中勉強していておなかすいて来てゆで玉子をこしらえたら、何かの工合でむいたらカラについてしまって、まるでデコボコな妙な風になってしまったことがあったでしょう、あのとき、あなたへーんな顔して見ていらしたけれど、とうとうあがらなかった
前へ
次へ
全295ページ中100ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング