五日に『文芸』二月号しめきるので、私のお正月もきのうだけというようです。急に寒くもなって人の出足はにぶいようです。
 ではこのつけたしはこれで。四日に一寸参ります。どうしようかしら。でも玉子のお挨拶だけにしておきましょうね。出ていらっしゃるにも及ばないのだし、さむいさむいし、ね。ねまきの袖を凧のようにして、さむいさむいと仰云るのおもい出した、では。

 一月四日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(六義園の写真絵はがき※[#ローマ数字1、1−13−21]※[#ローマ数字2、1−13−22])〕

 一九四〇・一月四日。きのう林町へ年始に出かけましたが、余り天気もおだやかでいい心地だったので、駕籠町のすこし手前で不図六義園の庭を思い出し、急におりて一めぐりしました。なかなかいい散歩場で多賀ちゃんと二人およろこび。ふらふら歩いてから又電車にのって、林町では歌留多という珍しいスポーツをいたしました。百人一首など何年ぶりでしょう! あなたはお上手らしいという定評でしたがいかが? そう? ※[#ローマ数字1、1−13−21]

 ※[#ローマ数字2、1−13−22] 一九四〇・一・四。この六義園は柳沢吉保が造ったのだそうです。岩崎がもっていたのを開放したものの由です。ところどころにある茶室に座って見とうございました。入場料五銭。札を売るところの男は、「このエハガキを下さい二組」と云ったら「オーケイ」とメリケンのアクセントで申しました。びっくりしました。林町へ二人でとまって、けさ、そちらへ行って玉子の御挨拶いたしました。多賀ちゃんのもどうぞ。余り人出で事故頻出。人間の数に合わせてのりもの不足の故でしょう。

 一月五日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕

 一月五日  第三信
 きょうはおだやかないいお天気。そして、二十八日のお手紙が到着。二十七日おかきになったてっちゃん宛のにやきもちをやいていたら、私へはやはり別にあったわけでした。ありがとう。独特の暮になりました、本当に。でもいいわ、スロウ・アンド・ステディについては、わがことなのですから。熱がどうか平坦になるように。かぜを引いていらっしゃるというのではないのでしょう? どういうわけかしら。呉々もお大切に。多賀ちゃんの手術について、又家の人員の移動について、もうこまかくおわかりの時分でしょう。今又二人なのよ。今年は
前へ 次へ
全295ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング