きょうはこんな紙。こういうのに細かい字を書くと読みにくくていけませんが、ほかのが切れたので。
 けさ、二月六日づけのお手紙。どうもありがとう。二月一日に書いて下すって、すぐそれから六日の分になるわけでしょうね。日光は暖いが、まだ屋根屋根や道路の日かげのところに雪が凍っているので風はなかなかつめとうございますね。五日の晩、大きい牡丹雪が降り出した景色は好くて、寿江子と二人で北窓から並んで首を出し、櫟《くぬぎ》の並木の梢が次第に雪にとけこんで行く景色をやや暫く眺めました。六日にも雪だから勇んで出かけたわけでした。私は雪が実に好きです。雪の匂いというのを知っていらっしゃるかしら。雪には仄かではあるが独特の匂いがあって、豊かで、冬に雪の少い東京は味がないとさえ思います。何も冬は雪にとじこめられて育ったわけでもないのに可笑しいけれども。冬のゆたけさは霜と雪とです。春の泥濘《ぬかるみ》も歩くにえらいがやはり感情があります。
 さて、私のおなかのひきつりの件。ひきつりはこのごろ大分ましになったのです。はじめ内部がひきつって嘔気を催したりした位でしたが、それはやんで、次には歩くとどことなく不快につれ
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