れた感じね。毒々しかったと思う。
 伝記については、云われているその点にこそ私の文学的人生的興味の焦点があるのです。日本の文学の歴史の推移との連帯で。それではじめて日本の作家が世界的な作家の評伝をかく意味が生じるわけですから、私たちの生活というものがぎゅっとよくまとまって、能率もましてくればうれしいと思います。もとのリリシズムの一層たかめられた実質での私たちの生活というもの。そのことを考えます。
 林町では国男、一ヵ月ほど北支辺へ旅行にゆく由です。仕事をあちらにひろげないではやり切れぬ由です。何しろ水道新設ができなくては建築をやるものはないわけですから。咲は、いろいろ微妙な妻としての立場から心配して居ります。行ったきりずるずるになられては。変なおみやげをもってきては、等。事務所がつぶれたって咲としては御亭主を確保したいのが当然ですから、国によくその点話しました。わかっているといっている。で、私は思わず自分の分っているのがどんなに分っていなかったかを考えて笑い出したし、安心もなりません。国の顔をみると、もちろん仕事についての関心もある。しかしそうでない興味もうごいた顔です。おかみさんは直
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