いろ考えなければならないから)。
 本年の冬は瓦斯なしデーというようなものが出来そうな風です。電力の配給についての自発的節約も、もうはじまっています。林町では、電気時計が一時間に二分―十分おくれるのでおやめにして居ります。
 きょうから又目玉ぐりぐりです。せいぜい、丁を出さないようにしてやるつもりですが。六日までに二日、五日と一刻千金が二日ぬけますから。でも凌ぎよくなりましたね。風には秋がおとずれています。今月はどっさり仕事があって、どうかうまくどれもやりとげたいと思います。弁護士のことなど、まあ大体目鼻がついたところがあって、些か安心です。又大分謄写も出来上りましたし。
 本のこと、アメリカへの訊き合わせ出しました。それからいつぞや「化粧」というソネットのこと(八月二十日ごろ)かきましたね。あすこと同じ発行所から『ビウェア・オヴ・ユア・バック』という詩が出ているのですが、どういう内容かしらと興味があります。「ユア・バック」というような字は訳す場合むずかしいことね。単純にうしろもあり次の世代を意味することもあり。とかく詩人は気取った題をつけますね。
『タイムス』を見ると、このごろ女の人の生活をかいた本が幾冊か出て居ります。所謂有名婦人のメモアルなどではなく、例えば病弱者としての生活や何か。
 咲枝もう大体よくなって、昨夜は十三日以来はじめて風呂を浴びてホクホクして居りました。
 この間うちの颱風警報は皆の心持に作用して居りましたね。菊五郎が甲子園で野外劇をやった折も、そのために五万の人出が三万になった由。ユリは嵐が来たら龍になるとかいたりしましたが、あながち嵐なしでも龍になれそうですね。では月曜日に。どうかお大切にね。

 九月三日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕

 九月三日  第八十五信
 速達をありがとうございました。弁護士氏行きませんでしたって? じゃ私のみならず、さきでも何かごちゃまぜにした感じで間違えたのかしら。土曜日にでも行ったのではなかったでしょうか。御話の趣、よくわかりました。こちらからは何も申さずにおきましょう。夫人へきいてやること、手紙もう出しました。近々返事がありますでしょう。上京は十月に入ってからだそうですね。大体のところ。
 月刊の合本のこと承知いたしました。今度はすこし手間をとるかもしれませんが。
 本のこと、こういうヨーロッパの有様では注文もいつ来るやらですね。緑郎、大戦始るか始らぬかで、ワルシャワにはドイツのボムが落されているなかでどうしているでしょう。丁度お金もなくなっているそうですが。この前のチェコのとき、巴里では多くの人が都会から逃げ、緑郎も「デンジャー、金オクレ」という名文を打ってよこしたが、今回はその暇もありませんでした。ドイツ式方法で侵入したからね、廻廊へ。
 けさいろいろの心持で御飯たべていたら皆川さんから手紙です。八月中旬に男の子が生れた由。そして、何人かの人々が組んで集合住宅をつくるのですって。十五坪ぐらいで三千円。渋谷のどこか奥の由。そのカン誘です。隆二さんの親友だが顔が見えなかった。そういうことについても思っていましたから、この手紙みて何か感じがあり、人の歩く道ということについて感じた次第でした。男の子をもつ、家を建てる。結構ですが。私をカン誘したこと、何となく頬笑《ほほえ》まれます。その人の心持が映っていて。私は十年の間五十円ずつ月賦はらって、渋谷の奥に自分の家というようなもの持つ心は、ちっとも湧きません。この釘もないときに。ごく少数のしかも或る種の人々と集合する気も致しません。まあそういう工合で、非常に一般の空気をよく語っている、日常生活に対する、ね。いろいろ面白いでしょう? 世界の波濤のスケールが一方に大きく出ているから、きょうは猶更。白鳥が、日本の作家は皆それぞれの時代に何とか器用にかくれ家を見つけて頭を突こんで来ている、というようなこと書いています。白鳥が云うのだから、これも亦面白い。この人のはかくれ家どころか、そこが住宅なのですものね、本質に。
 あなたはこの一二日のうち、おなかこわしなさいませんでしたろうか。昨夜、というよりきょうの明方大層冷えましたね。その故か、ここでは二人腹をこわしました。咲枝とおまつさんという女中と。大層痛んだそうです。どうだろうと頻りに考えます。大丈夫? どうぞお大事に。今年の夏は早くすぎました。夏に入ったとき、早くすぎればよいと思う心持でしたが。すぎかけたこの一夏を顧ると、味い尽きぬものを獲て来て居り、私は落付いた心持になって、その落付きは、自分がその正当さの輪廓だけ知って信じていたことの具体的内容が充実されることからの落付きという工合です。七月から八月へと、心持のそういう心持よい重みが、ずっと加わりました。感覚の面
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