рネんかにでも「百合子さん何々おしかい」という風でね。中條のおばあさんは、貧しい武家暮しの間で風流を覚えるひまなく紋付の裾はしおりで台所働きをしつづけた人です。田舎の言葉で「百合子、お前のおっかさんの手紙は、ハアうますぎてよめねえごんだ」と訴えた人。西村の方は、明六社雑誌同人中では一番保守でした。
きのうは、書くものの下こねをしていたら電報。ユーソーとあるのでいろいろ考え、自分で持って行くまいかと思いましたが、夜床に入ってからもどうもカ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ーのことが気にかかるので、自分でゆくことに決め。このまま着られになったら、本当にどんなにさっぱりなさるでしょう。ああさっぱりしていい、いい、と云ってどっさりのボタンつけ終った。半身だけボタンとめて、あと半身は、わざとはずして、見られるようにしておきましたが。面倒でもおつけにならなければ、ね、自分で。一つ一つボタンつけていたら、あなたのホクロのこと思い出しました。そして一つ一つつけてはその上に、挨拶のパットを与えました。言葉にならないいろんな物語をしながら。夜具など運ぶとき晴天だとうれしいけれど、天気がわるいと悲しいわね。折角大切に日に乾してふくらがして、ポンポンのをあげたいのにね。てっちゃん、水曜日だったので様子をききによってくれました。呉々もよろしくと。
昨夕は新響の音楽会だったけれども行かず。前晩余りよく眠らなかったから。早くねたのに、余り好成績でなくて、けさ渋い目をしておきて、夜着をもってゆき、かえりに家の角迄来たら、ぶつかりそうになって隆二さんの一番下の弟さん、駒場出た人に会いました。何年ぶりかで。うちへ来たのだとばっかり思ったら『婦人之友』へゆくところの由。かえりによることにして。台湾の兄さんも出京していられたそうです。
畜産の話、いろいろ面白く思いました。朝鮮牛をテーマにして特殊な勉強をして居る由。北海道というところは、その道の人が見ると、牧場の経営が古風で、近代経営のところとそうでないところとの差が甚しくておどろく程の由です。北海道は、いい、いいと云うので行って見たがよくなかった。これは私に大変面白く思われました。五月の一時に来る春というものをロマンティックに感じて、いい、いいと云った人と、地べたの上の草の生えかたや原っぱを、風景以上に見られる人の心持と比べて。大変なちがいがあります。人生のあらゆる方面にこのちがいがあるわけです。そう思うと、一層そのちがいの深さが感じられる。そんな気がしました。それから金のこと。朝鮮の砂金のこと。図書館のない町での暮し、勉強の金のかかること。等。ホームスパンのことでは大笑いでした。婦人之友工芸研究所とかいうのがあるのです。そこへホームスパンの柄《がら》の見本をしらべに行った由。そしたら「ありゃ心臓のつよさだけでやっているんですな」技術上のことはひどく知らない。チャチの由。「よくうれますか?」ときいたら「え、とてもうれますわ」との答え。大いに笑いました。『婦人之友』は自由学園で年々歳々暮しにはこまらない亜流インテリゲンツィアの細君をつくっているから、一種の信仰というかくせというかで『婦人之友』のものは、どうしてもうれるしくみになっている。この弟さんは兄さん思いの様子ですね。兄さんの心持のこまかいことなど思いやっていました、離婚した妻君についての心持などについても。愛することと甘やかすこととの混同、愛されることのうれしさと甘やかされる安易さに馴れることの混同、それらがいりくんで、破綻を来した。
甘やかされるということの害毒は、世の中の波の荒さが加わるにつれて、不幸の原因となりまさる一方です。何につけても、ね。夫婦の間のことのみならず。甘やかされる形、そのしみこみかたは様々、複雑ですから。ユリの生活に於て、その点をくりかえし、くりかえし、云われるわけであると思います。白蟻にくわれてはおしまいですものね。
きのう『朝日』に今日の学生生活について一寸かいた記事がありました。東大の生活調査だと、月平均四十二円六十四銭。五千四百三十二人のうち一割強がその金にこまっているそうです、農村出の学生が。卒業即応召という事実は、暗記勉強より「笑って死んでゆける心の準備」を熱望させているというのは、わかります。そして坐禅四百七十六名という数が出ていました。阿部知二、現代の漱石と広告文にかかれるが、この若き心を描き得ないことについて、嘗て一度でも涙を流したことがあるでしょうか。私は、所謂作家というもののありようについて、折々何とも云えず貪婪《どんらん》なものを感じることがあります。はっきり大衆作家と本性を出している者の方がまだ罪が浅いようなものです。もう何年も何年も昔にね、私がアイヌの生活をかきたいと思って札幌のバチェラーの家に
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