にくっきりして来て居ります。どんなに或る一組は他の一組ではないかということが痛感されます。この中では私たちの生活というもの、その独自性もやはり深く考えられ、自分たちの小道についても深く思う。よその根にどんなに近くよって見たところで、自分の花は咲かない。自分の根の養いとするのでなければ。このあたりのこともなかなか面白いものです、人間生活というものの。
[#図8、花の絵]
きのうは、昼すぎ家を出て、ター坊のお母さんをつれて、てっちゃんのところへ行きました、およばれ。てっちゃんが世帯をもって初めてです。赤ちゃん大きくなっている。卯女ちゃん[自注11]の両親だの、良ちゃんのお母さんが弟息子をつれて来て、皆それぞれ親子のつどいでした。てっちゃんの家のあたりは去年ぐらいまでは前が畑でよかったらしいが、今は住宅地に売ろうとしているところで、急速にぐるりが変って来かかっています。豪徳寺というお寺を散歩しました。ここに井伊直弼の墓があります。又招き猫という、縁起の猫の本尊(由来不明)があって、花柳界などこの頃大層な儲りかたにつれ、お猫様繁昌で紫のまくがはってあったりするのを見ました。坊主が自動車に重りあってのって、どこかへ(お彼岸だから)出かけてゆきました。そんなものをも見て珍しく散歩し、夕飯をたべ、かえりました。ター坊のおっかさんの話、本当に真率でいい心持だし面白い。本当は東京にいたいのですって。しかしもし万一のとき心配だからと云って、他の子供たちがきかない由。
島田からお手紙が来ました。お元気で、働いているものもいい若者たちだそうです。甘党だから何かと思っているとありますから、何かお送りしましょう。隆ちゃん五六月頃には渡支の予定だそうです。六月には、皆留守だから御法事も大したことはせず、達ちゃんが秋にでもかえれば(只そうお思いなのか、何かよりどころがあるのか不明です)すぐお嫁さんもたせなければならず、その折は私にぜひ来て貰わなければならないから、この六月には来ないでいいということです。達ちゃんのことはそれとして、私は、皆がいないのだから猶一寸でも行ってあげたい気持です。達ちゃんが手紙で、『文芸』に「早春日記」(私の題は「寒の梅」、もう一人のと集めてそういう題)が出ているので懐しく、雑誌送ってくれと云ってよこした由。あちらにないそうですからこっちから送りましょう。
[#図9、花の絵]
丸善の本注文しました。研究社へきいたら出版と同時に送ったという返事でした。まだつかないでしょうか。何でも十二日ごろ発送したそうですが。払込は二月十六日にして居ります。あの英和どうでしょう。わるくありませんでしょう?
家のこと、暮しのこと。寿江子の方へも手紙かいておきました。今に返事よこすでしょう。そしたら又よく考えて、御相談いたします。護国寺のところから、音羽へ曲らないでずっと雑司ヶ谷へぬけて日の出の裏を通って池袋へ出る市電が四月一日から開通します。日の出の三丁目あたりからそちらの横へ出られるわけで、団子坂方面からは一直線、のりかえなしとなりました。ひさは、友達を代りに見つけられそうです。大いに助ります。けれども、全体的な経済の点から、家のこと、考えなければならず。もし、本郷に動くとして、その電車が通るようになったの、何とうれしいでしょう。あれへのりこれへのりしないですんで。時間はすこしかかるでしょうが。これもまだ未定ですけれども。今度そちらからのかえり、林町までずっと行って見て時間を調べましょう。
お約束の表 三月十日――二十日迄。
起床 消燈 頁
十一日 六・三〇 一〇・二〇 十五
十二日 七・三〇 一〇・一〇 四〇
十三日 六・四五 九・一〇 四二
十四日 六・三〇 一一・〇〇 四六
十五日 七・三〇(水)一〇・四〇 五七
十六日 六・四〇 九・四〇 二〇
十七日 六・三〇 一〇・〇〇 一五
十八日 六・五〇 一〇・三〇 三四
十九日 七・〇〇(日)一〇・五〇 五一
二十日 六・三〇 一一・〇〇 二四
この頃本について感じることは、一つの本を、何冊も持つの、どういうのかと思っていたら、それが手元にあるなしばかりでなく、違ったときに又よむときやはり別の本がいいということがわかり面白く思います、その時々で引っぱり出して来るところが変化し進みもするので。それから、前に読み終っているものが、他に一歩出たため、又ひろい展望で思いかえされてよみかえしたくなるというようなこと。
又曇って来ましたね。久しぶりの外気。風邪をお大切に、呉々。
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[自注11]卯女ちゃん――中野重治の娘。
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三月二十
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