ることを条件にたのみましたから、私が仕事の間で下へおりて来ると、そこにはあなたの冬物が縫われているという、いくらか家らしい光景が現出するでしょうとたのしみです。若い女のひとが一刻も早く来てほしいと思って居ります。今は派出もありません。経済的にはたまらないけれども、一人ではやれませんから。ではお大切に。今年は早く寒くなりますそうです。

 十月二十一日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕

 十月二十一日  第九十七信
 夕飯になる迄一寸おかみさんのお喋りをいたします。
 けさ、大森から派出婦の、フヂエさんという丸い若い女のひとが来ました。府下の生れで、七人きょうだい。お父さんは精米やさんの由です。一年半派出しているそうです。その全体の様子は、もう二年前であったら、お女中さんをしたにちがいない人ですが、只今では一日一円三十銭、いくらでもひま[#「ひま」に傍点]のとれる派出になっているという人です。ですから、気がおけなくて、楽でようございます。
 おミヤさんが明日か明後日はかえるので、そのお礼にハオリを一枚買ってやらねばならず、目白の先の呉服屋へ出かけ、その表地、裏地買って、あなたの着物の裏買って、ザブトンの布をかって(これは三割スフでも木綿だから)かかえてかえって来たら玄関に岡田禎子が珍しく立っている。それからいろいろ劇団の話をきいて、先刻かえったところ。
 そしたらガス会社から人が来まして、来月からガスを小さくして(火口を)、そして消費だかも一〇立米へらすことになり、金高にすると四円いくらのものが三円いくらであって、それを超すと翌月はガスをとめることもあるということになりました。こんな小さい世帯でこれ丈ですから、大きいところは随分ちがいますね。たべものやなど、五十円のところ三十五円ぐらいというから、そうすると時間を短くするしかない由。したがって上りがへる。ものが反対にあがる。勢たかくなる。この頃は全くそとでものは食べられないというようなものです。所謂洋食などはペケ。私は外でたべないからたすかりますが、つとめている女のひとなど、自炊していないひと、大変ですね。二十銭、三十銭という食代にやはり何割かがかかって来るわけですから。
 玉子あがっていますか? 私の方は殆どやめです。市場(あすこの目白の角の)で午前中うりますが(一人に百匁)黄味があのいい匂いの代りに妙に
前へ 次へ
全383ページ中324ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング