カのなかを一心に見ながら、すり足のような小走りでいそいでいるのが、おわかりになるでしょう。
この間の手紙(この前の分)でかくのを忘れましたから一こと。おめにかかったとき、私がすこし熊坂長範めいたことを云ったら、あなたは、そんな風に云々と笑っていらした、覚えていらっしゃるでしょう。あのこと。予定なんかをはみ出すのは云わばあたり前みたいなことであろうと思って居ります。いつか、ユリが病気したりしたときのために、と云っていらした方ね。あれが畧《ほぼ》この間書いてお送りした謄写代のトータルほど(すこしすくないが)あって、それを役立てるから大丈夫です。なんだ、そんな、とお思いになるようなことはしません。本末顛倒したようなことがあれば、勿論あなたは、そんなこと希望しておいでにならないのは十分十分わかりきっているのだから。もし、どう考えているか。小さいダイナモ、どうまわすつもりか、と思っていらっしゃるとわるいから。そして、もしかしたら、どこかに礼を云わなければならないような人がいるのではないかと、お思いになるといけないから。これで明瞭でいいでしょう? だから島田へ送った三倍はあるわけです。けれども、これから先の分の部数のことだけはやはり一考を要しましょうね、きっと。出来ればそれの内で納めたいところもあるわけですから。
今年は十七日の顔ぶれもいくらか変化しました。栄さんたちにも相談しましたが、S夫妻は又別にします。それについて、この間御相談しようと思っていてつい忘れてしまって。やはりその方がはたも自然ですしね。いつも困った気持になります。
あなたにお祝い何さしあげましょう。吉例にしたがって限定版の詩集一冊。それはもうきまっていますけれど。今年のは表紙が非常に軟かで、つよい鞣革《なめしがわ》で玉虫色の象嵌《ぞうがん》があります。装幀も年々に含蓄を加えます。
それからリアリスティックなものとして、岩波の『哲学年表』、それは今お忙しいがきっと面白くお思いになるでしょう。折々ひっくりかえしてみて。それをお送りいたします。
あなたのお誕生日が祭日なのは面白いけれども、私としては本当に不便ね。しみじみそう思います。仕方がないから松たけでも入れて、すきやきを一同でたべましょう。ああそれから、お酒なしよ。
きょうの様子だと晴天でしょうね。あなたのところへは二日もおくれて菊の花がゆくで
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