方で生活を計っているから御安心下さい。気分はおだやかで、追々夢も減って来て居ますが、この力の充実しない感じは微妙で、ちっとも戸外へ出たくない。十七日に家から出たぎり。冬はこういう内部的な肉体の恢復というのはおそうございますね。傷のところは大層工合よく肉がもりあがって来ていますが。今の私の体の感じは面白いところがあります。肉体の奥ふかい全体にまだ衝撃《ショック》の余波がのこっていてとれない、そういう感じです。常に不調和というのではない、調和はとれた感じだが、その水平線が低くて、引潮で、時々ああアと思い出したように肉体の中に疲れを覚える。そんな工合。幸二階は日光が十分さしますから、大体二階暮しでのんきにしています、横になったりよんだりすこし書いたり。そちらではこの冬風邪さえおひきにならなかったのだから本当にようございます。私は自分が病院でいた間どの位それをうれしく安心に思ったかしれません。本当に私はよく気をつけますから、お互に今年は好調にやりましょう。
私の場合について云うと、十二月のダラダラ風邪や今度の切腹やその後のこういうやや弱っている状態は、内部的には様々のプラスとなっているのは興味あることだと考えて居ります。あのダラダラ風邪の間に、去年のうちのいろいろな気持の底がカタリと落ちてどこかシーンとした気持になっていたところへ、切腹で、おちた底の上で引つづき静かな持続的な省察が各面に動いていて、決してわるい状態でないと思われます。真面目な勉学ということの立体的な意義も人間生活の長い長い歴史の光とてらし合わせて、益※[#二の字点、1−2−22]感じられて来て居ます。私はきっと、今までよりすこし大人らしい[#「大人らしい」に傍点]勤勉さがわかって来たのでしょう。ですから勉強はつづけます。事務的に必要なことをよく処理しつつ、落付いて勉強します。書けることを、書くべきようにかきつつ。書くことについてやたらにせき立った気では居りません。今年は去年一杯の苦しかったいろいろのことから学んだ点もあり、体の中からくされもののなくなったこともあって、大分様子がちがった気分で、自律的勉強、書きものの出来る気持です。おなかの中がいつも不安な一点があって、いつもそれを劬《いたわ》らねばならず、しかも気でその不快感をひっさげて暮していたようだったのを今思いかえして見ると、いかにも両肩に力が入って
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