ュあることです。このことについてもいろいろと考えます。そして、又面白いもので、作家のもっているリアリストとしての特質というものは、大作でない小さい箇々の作品の中でも、やはり一貫した健全性としてあらわれていること。どうもなかなかつきぬ味があります。作家のジェネレーションとして持っているものの差ということも大したものであると思います。文明史、芸術史の一定の特徴のなかでは、若いジェネレーションの犠牲はすくなくありませんね。
今夜はこれから風呂をつかって早くねます。明日はどんな都合かと思いながら。今はこのテーブルのまわりに一家がかたまっていて、咲枝は「どうしたんでしょう、平気だわ、すこし気がひけちゃう」と云いながら太郎のシャツを型紙で切って居ります。ラジオが何か音楽をやっている。アボチンがラジオの横でダッチャンと何か喋りながら、ラジオのどこかをひっぱって音を大きくしたり小さくしたりしています。小さくなると戸外の雨の音がきこえて来ていい心持です。
生れる赤ん坊の名がまだきまらず、あなたに一つ考えていただこうかという評議もあります、次郎というのに上一字つけたいのですって。男ならば。私はたちどころにあなたの字を貰えばいいと思うけれど、次郎には似合いません、それに中條という姓にも。女の児だったらと、これもまだ不明。桃の花は美しいわね、いかにも女の子でしょう、桃子はいいと思いますが、いかが? 字に書くとしかし條という字と桃という字とは感覚の上でしっくりしませんね、むずかしいものです、あなたはどんな名がおすきかしら。もしお気持に暇があったら、本当にすこし考えて下さいませんか。では明朝、短い手紙にどっさりの挨拶をこめて。
七月十二日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕
七月十二日 第六十三信
なかなか暑うございますね、夏みかん届きましたか? お金と。きょうは午後一時すぎまでそちらに居りました。アイスクリームと思ったのでしたが、今年はまだの由。人手が足りないと運ぶときとけるので、まだの由。丁度栗林さんも、やはりそちらからの電報ついて、来ていて、又明後日来ると云って居りました。御闘病もいろいろと経過があるのでなかなかですね。いずれにせよ、やっぱり悠々と合理的にやっていらっしゃるに違いないから、その点では安心して居ります。きょうはこれまで話をおききしていたお二人のほか
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