ノは旅させろ、大事な親にも旅させろだろうかと笑いました。
翌日は、戦場ヶ原や白樺林、楢の深山らしい雄大で凄い樹林をぬけて湯元へ登ったら、ここには雪が積っている。湖畔の桜は赤い蕾で日光では満開。湯元で雪のつもっているのを見たら(往来や山に)何とも云えない面白い、奇妙な、感じがして、一寸一言に表現出来ない心持でした。いい心持というのではないの。変な、世界が変ったような、異様な感情ね。盛夏アルプスなんか登って万年雪を見るとき、こういう感じがするのでしょうね。もっと大規模に。私はそうだとすれば、夏はやはり夏らしいのがすきだろうと思います。大変妙ですもの。すぐには馴れられない。
湯元でお母さんは御入浴。御飯。ここでは鯉の洗いと鯉こくを出しましたが、お母さんこれもやはり「旅にしあれば」召上った由。洗いに至っては、こうしても食べられるものかと感歎していらした。私はやはり北ですね。鯉はすきよ、洗いも。中禅寺へ二時半近く下りて来たら、お母さん、日光は一泊するのが実によいが一泊で十分とのことでした。食べ物の関係から。宿やなんか同じようですものね。たしかにそういうところもある。
華厳滝のそばから、話の種にケーブルカアにのろうということでしたが、大層な列を見てヘキエキして馬返しまで同じ自動車で下り、あと電車で駅。八時すぎ無事御帰館。
お母さんの話題は一きわ内容豊富に、おなりです。東宝で「忠臣蔵」を御覧になり、今夜歌舞伎を御覧になり、随分お話の種は粒揃いです。多賀ちゃん、毎日ハガキで家の様子知らして来るので、御安心です。
明日は不忍池を御覧になりたい由だから、そちらからずーっとまわって、もしかしたら林町へよって皆で写真を一つとるように手筈しようかと思います。写真は私、昔ヴェストなどいじったことがあった程度です。一枚は本式のがあってもようございましょう? 記念に。芝居のかえり二人がお送りして来るから、うち合わせて見ましょう。
林町の連中もこの間うちへおよびしたときも、今夕も、わだかまりなくおもてなししているので何よりです。林町の家、謂わば初めてゆっくりお入りになったようなものでね。先のときは、一度目はフィクションの最中で、林町の母が動顛してヒステリーをおこしてしまっていてしゃんとお迎えしなかったし、二度目は国府津にいてお母さんは信濃町だけ。全体から云って、些かいとまある心で、御滞逗
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