ヒをしたら腕が痛くて熱が出て、けさ早くは出られなかった由。
 御寿司の御馳走が出来るそうで台所は大活況を呈している。私は冨美子と喋りながら、縫いもの。あなたの寝間着。今にもっと暑くなって、その白地に格子のねまきが届いたらどうかよく覚えていらして、体のまわりを横に縫われている線を触って下さいまし。そこに沢山のおまじないがこめられて、あなたの体をぐるりととりまくようになっている(普通のうちあげですが)。由来昔から魔女が自分の愛する者をいつまでも自分のところにとめておきたいと思うとき、その人の体のまわりに輪を描くのがしきたりですからね。二つの腕でだって、やはり描くのは輪ではないの、ね。
 顕兄さん、背骨がかゆうてよう眠れまい。これは私が背筋を縫っているときの多賀ちゃんの評です。
    ――○―― 二十四日
 きのうは若い連中三時半におきて出た。目醒しが私。
 きょうは四時半。やはりその目ざまし役も買っていたら、お母さんが十二時頃目をおさましになって、もう眠れないからいいということで責任をゆずり。三円七十銭(目ざまし時計の価)の役目終り。今夜帰京の荷づくりをします。午前中本よみということにして二階に上って来たところです。
◎冨美子の英語は三年になると、英語と手芸とどっちに重点をおくか生徒をその希望によって二つに分けるのですって。そして、英語には相当の理由、相当の学力がなければ編入させぬ由。冨美子の英語は甲の由。三年からは英語志望する由。二部へ入るのだし理由はあるわけですね。
◎只今寿江子からハガキ。十五日のつぎは二十一日にそちらへ行ったのですってね。二十四日(今日)行くかどうか書いてないので、二十四日行くものとして速達出したあなたへの伝言届かないうちに二十七日になっては困るので電報出しました。
 五月四日 夜。
 何と久しぶりでしょう! 深いよろこびの心でこの紙に再び向います。二十三日に書き、二十四日に一寸書いたぎり、十日経ちました。今夕は母上、咲、国と歌舞伎座です。去月の十三日以来、初めて一人の夜。二人きりの夜。二通のお手紙にやっと返事をかくわけです。朝六時から夜九時半までのフール・デェイ・サーヴィス故|何卒《なにとぞ》あしからず。お母さんに、何しろ親孝行の注射みたいなもので、間を相当もって頂かなくちゃならないから、相当太い注射をしなくては、と云って大笑いです。
 さて
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