ス。ここは震災で滅茶になり、後とりがあるようなないような形で今は江井、ね、もと林町にいた、あれがアパートをやって居ります。
ハハア、私がここにいるのでKという運転手遠慮して下へおりた。寝たいかもしれない。では、私もその細君を忍耐して下へ行こう。では又、ね。サロメチールつけたので、びっこ大分楽です。
二十二日
きょうは久しぶりではっきり晴天になりました。暖いこと。でも羽織をぬぐと風邪をひきかかるような工合。そちらの御工合はいかがですか。きょうは二十二日ね。三日、四日に岩本の小母さんが来られて、五日に立って、六日について、七日。七日。七日。
沢山歩いたりして疲れている故か眠いこと。この頃皆つかれて大抵九時半というと一斉消燈です。六時前もう、御免なさんしと云って来る人もある。朝、駅から電話がかかって、二十六日の「さくら」の場席がとれました。多賀ちゃんはお母さんの持っていらっしゃる襦袢を縫っている。私はさっき下で、お母さんがあなたへお土産とお買いになった純木綿の浴衣を裁って、二階へ来て久しぶりで海老茶色の本をひろげました。そして六十頁ばかり読んで、一寸一息入れたくなってこれをかきはじめたわけです。明日冨美ちゃんが来るでしょう。明後日は岩本の小母さんが見えるでしょう。二階にいられる時間がなさそうですね、私は笑われるかもしれないが慾ばりでこんな本よみかけ一冊、つづき一冊、二冊も持って来たの。一冊読了することさえ出来るかどうか。今ではこの本も親しさが加っていて、長い本をよむときの気持の持続性が生じていて、日常生活の気分と平面が同じになって来た感です。生活の内へ大分入って来て、そう嵩《かさ》だかで、手の出ないという感じでない。
てっちゃん、やっぱりこんな本よんでいる話、していましたろうか。そう云えば、私の今日の手はすこし鉄さびやら蕗の渋やらがついています。うちの水はひどい鉄分で、アルミニュームのやかんにすっかり赤さびがついて湯の出がわるいわるいとお母さんが云っていらしたので、その中をすっかり洗いました。マアマアと皆びっくりした、よくこんなのでわかしたお湯をのんでいた、と。でも鉄は貧血症の薬だから、うちの人は皆貧血はしないでいいだろう、と大笑い。蕗はお母さんと、台所の腰かけで話しながらむいたの。わきの七輪ではタコがゆだっている。お湯からゆでると茹《ゆで》ダコの赤いのにならな
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