到達する美しさを感じ合う心と肉体というもの。
 きょう、あれを読んだら様々の思いで、新たに、結び合うテムペラメントの必然の一つを感じました。
 そしてね、一つの内緒話がしたくなった。女にとってね、私のような女にとってね、そういう深い深いともなり(共鳴)を得ているということはどんなことを意味するか、どのような経験であるかということについて。
 あなたは抱月と須磨子の生涯を覚えていらっしゃるかしら。何故、須磨子は抱月のいなくなった後、生きていられなくなったでしょう。何故一年後にもう生きていない気になったでしょう。大変古いことで、世の中の人は物語として記憶しているだけでしょうが、私は、あなたの病気が本当にわるかったとき、時間の問題として語られたとき、自分のうちに生じた一つの激しい感情から、その疑問を、最もなまなましく自身に向けて感じました。逆に云えば、感情の頂点に於て、直観において、いきなり、一掴みにわかって、だが私たちとしては、それを全体との関係のうちにおき直して見なければならなかったというわけです。
 丁度その前後に、あなたはユリの旧作をいくつか読み返しなさいました。そして手紙の一つの中で、私のもって生れているいくつかの点にふれて、どんな困難をも凌いで行けるだろうということを云っていらした。実にくい入るように感じることがあった、けれどもあの時分には今書いているようには書くことが出来ず、通じるもののあったことさえ苦しくて、あなたの体が、ああ、やっと! と私の側《がわ》に実在するものとして感じられるようになった、その大歓喜の面からしか表現出来なかった。
 私たちが今日見合うよろこびの裡には何と多くのものがこもっていることでしょう。それだからこそ、うれしさは何と透明でしょう。
 ここまで書いたら不図思い出したのですが、私が虫退治したとき、切開後、肝心の一週間の経過をはっきりあなたにお知らせしなかったことを、あとで叱られましたね。くりかえし叱られたわね。ああいうとき、ああ仰云るのね。ああ、ああ。わかった。改めて、謹んで、ありがたく叱られ直していい気です。可笑しいこと。あのときは、叱られてると思っていたりして。そんな点で、ユリのバカと少しは癇癪もおこったのでしょう?
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[#図11、インク壺の絵]ここからインクをつけて書いているインク壺。初めて小説を書いた
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