らが極めて具体的に納得されました。そのことでは多くのものを得ました。習慣でジャーナリズムを一義のように考えるといっていらしたことね、その点も複雑な現実性でわかり、これまでその限界というものは十分に見つつ、書いてゆく気持ではやっぱり一番自分にのぞましいものにとりついているところ、その辺デリケートで、あなたがいっていらした真意もどちらかというと一面的に理解していたようなところがあります。〔中略〕一つ二つならず会得したことがあって(書いて生活してゆかねばならぬものとして)生活的にも興味があります。文学の問題としてみると、際物でない作品に対する要求は自然の勢としてつよいのであるが、その要求の表現が、非現実な夢幻的な方向に向ったりしがちであることも、現実の語りかたの条件の反映として強く現れています。今に鏡花でも再登場するかもしれず。露伴までかえっているのだから。
勉強は十二日以来相当量進捗して居ります。今経済に関する初歩。三つの不可分の要素はわかります。そして、今日のトピックに沈潜するためにも、文学の展望の上にも尽きぬ源泉として活気の基になることもわかります。(十五日の雑談でも語っていますが)。勉強などというものは、ある程度深入りすると一層味が出てもう自分から離さなくなる、そこが面白い。そしてそこまでゆくのが一努力というところも。〔中略〕こっちの側をよくもりたてて、五円よりはすこし、よけい収入もあるように計ってやってゆきましょう。増上慢の語。これは古い言葉ね。おばあさんが、ほんとにまア増上慢だよとか何とか云っていたのを思い出します。女の科学や芸術の分野における悲劇ということは実によくわかります。低さから生じる。ちやほやしてスポイルするのも低さなら、頭を出すのもぐるりの低さから、そして自身の裡に十分その低さと同質のものがあることを自覚しないところ、「えらい」ように自分を思うところ、そこに悲劇の胚種があります。〔中略〕
男の生活の低さ、その一段下の低さ。そういうものは本当に一朝一夕に解決されないもので、実に歴史の根気づよさがいると思われます。本年は私はどこか心の底に絶えぬよろこびがあります。それは自分がすこしずつ、すこしずつ点滴的だが変って来つつあることを感じていますから。そして、じっと考えればこれは私たちの生涯にとって一つの大切な転機をなしつつあるのだと思います。去年から今
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