の深いことだろうと思います。かえって話をきかせて貰うのがたのしみです。イルマさんだけ行くのです。いろんな人からあなたへのよろしく、よろしく、お体をお大切に、ということでした。
きのうは、会へ行く電車のなかでも、テーブルに向っても、折々朝のうちの匂いたかい花束が近々と顔に迫って来て、むせぶようになりました。私は花の香には実に感じ易いから、あんまり芳しいと気が遠くなりかかります。
きのうは、前便で話していたように会だらけの日でした。けれども私たちは中野さんにも骨を折らしてお祝を貰ったから、中野さんたちの会だけにしようとしていたら、三宅やす子さんの会に是非来て呉れるようにというので、それからエイワンへ稲ちゃんと二人でまわりました。AIはイギリス人の細君とはじめた、初めは小じんまりとしたところでした。父たちぐらいの人々がそのイギリス風をひいきにして段々盛になって、この頃では新築して株主をこしらえたりしています。この会はそれぞれ面白かった、というのは、テーブルスピイチをする女の人が皆相当の年で、それぞれの職業で一家をなしているためその特長があらわれて。例えば村岡花子というラジオの子供の時間にいつも話しているラジオの小母さんは、実に自他の宣伝上手でまるでラジオで話す通りのアクセント、発音、変な無感覚性(きき手に対する)で話すの。実に可笑《おか》しい。それから作家でも吉屋信子の機智の土台のあの小説らしさなど。私は三宅さんのもっていた矛盾やその未解決さや生きかたの或正直さなどを話し、きっとそれもはたから見ればやっぱりにん[#「にん」に傍点]にあったことを云ったのでしょう。
稲ちゃんのところでは達枝ちゃんが今日三越のホールでおどりのおさらいがある由です。
今これを書きかけて思ったことですが、私たちは一つところに暮していないために、一緒に暮しているより一日の沢山の時間をお互のために(内容として)つかって居ます。本当にそう思う。こうして書き出して、私は決してもう書くことがなくなったと感じたことはないのですもの。あなおそろし。三時間ぐらいはいつも、です。これからは毎日すこしずつお話をしてゆくことにしましょうかしら。
『片上伸全集』のことね、私は文学史的な意味からも買おうと思います。谷崎精二氏が編輯に当っている由です。この人の些かの良心によって手紙も入れられたらしい様子です。内容見本
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