当人は、失敗失敗と云って居りますが、これだって判る、と出す次第です。左手の垣沿いの小道が少しひろいように見えること。前が生垣つづきの一間ぐらいの小路。左手のつき当りに家があ〔一〜二字不明〕裏の上り屋敷の駅のところの欅の梢が見え、雪の夜など電車のスパークが見えます。貨車が通ると家じゅうゆすぶれます。有斐閣注文しました。
二月十六日(消印) 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(絨毯の絵はがき)〕
これが十三日の絨毯です。夜描いたので全体すこし色がきつめですが、大体こんな感じです。三畳しきです。おなじみの箪笥の前で椅子にかけてのスケッチです。これは私が寿江子の弟子になって壁だのタンスだの障子の棧だのの色をぬり、ぬるときはおとなしく、これでいい? ときいて注文を出すときはえらそうな声を出すと大笑いをしながら描いたもの。
二月十七日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕
二月十七日 第十五信
十四日づけのお手紙をありがとう。きのう頂きました。かえってすぐ返事を書こうと思っていたのですが、そちらへ行ったら十四日のときの受けたものと余りちがった印象だったので、たった間一日のうちにどうしてそういう激しいちがいが生じているのだか咄嗟《とっさ》にそちらのお気持に入って行けなくて、戸まどいを感じ、何だか悲しかったから、その気分がしずまるきょうまで待ったわけ。
きのうすぐ書かないと云ったら、きょう、いやな顔をなすったけれども放っておいた意味とは全く反対の、そういうわけ。
正直なところ、今もやっぱり私には、あなたがあれ程の顔をなさるのが、何か唐突なのですが。私のやりかたに原因がないというのではなく。確かにそうであっても、でも。びっくりしているようなこの気持わかっていただけるでしょうか。ただ対照から、そうつよく感じるのでしょうか。どうお思いになるかしら。
家のことは、お話したように省線の便利はあった方がよいという附随的な条件なのですから、そちらへ歩いて通えるということが条件第一条です。寿江子が一緒に暮さないのだから、ひさと二人の生活を考えて見つけるわけです。きのうはあれからまっすぐ家へかえり、途中で買った地図をしらべていましたが、気持が落付かないので出かけて、そのぐるりを相当歩いて見ました。札は一つもなかった。そちらの裏手の東横とでもいうあたりには大きい雑木林があるの
前へ
次へ
全383ページ中58ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング