知っておいででしょうか。その道から頂上へ出たすぐ右手のところです。お父さんの御骨は隆ちゃんがゴム長靴はいて背負ってかえってきました。私はこういうやり方をはじめて見たし、日頃からあまり仰々しい儀式のよそよそしさを感じているので非常に心を動かされました。すべてのやりかたに愛情がこもっている。坐って、紋附を着て、雰囲気をつくっている感傷というものはない。いい心持でした。
夜は昨夜まで八時頃から十時頃まで、山本の近さんがカンカンカンカン木魚を叩いて二十人位集ってナムアミダをやって、沢山お酒をのんで、御馳走にあずかりました。あたりの田圃で今は地べたが湧き立つように蛙が鳴いています。電燈の光のあつい家の中では、ナモアミダブ、ナモアミダブといろいろな顔と声が合唱して、茶色と黒とで描いた一つの風俗画でした。御仏壇に紋附を召したお父さんのお写真が飾られているが、皆がナムアミダをやっている最中お母さんが思い出したようにナムアミダ、ナムアミダとお数珠をもんでいらっしゃる様子をみるといかにもところの慣習にしたがっていらっしゃるのがわかり、その退屈さを無意識に辛抱していらっしゃるのが分ります。落付かないで、居
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