でいてよかったと思います。省線の価値は大したものですから。達ちゃん達もこれまでのようにはトラックが動かせますまい。紙がなくなったので今日はこれだけ。私は今文学史補遺的仕事をして居ります。半期ずつまとめての通観です。では又
五月九日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 山口県熊毛郡島田村より(封書)〕
五月九日
島田の家の表通りに近い方の二階の机でこれを書きはじめました。風が出て、曇天。鶏のコーココと云っている声や雀の囀《さえず》りが聞えるのに交って、竹の葉がカサカサと乾いた音を立てている。何だか暮のようです。この竹の葉は達治さんのためにあちこちからおくられた旗の竹の葉の触れ合う音です。きのうまでは二十何本か旗がズラリと立って、むかいの河村さんの家のとなりの小さい空地に大きい国旗が立ち、小旗がはりわたされ、こんな工合で賑やかでした。
[#図2、ポールに日の丸の絵。てっぺんから斜めに1本のロープが下がり、小旗が沢山つけられている]
お母さんは又いつ私に来て貰わなくてはならないか知れないから、今度は来ないでもよいと折かえして電報をおよこしになったけれども、やっぱり顔を見れば来て貰ってよかったと
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