手をぎっしりつかまえて一言もきかず。門のところで大いに泣いたそうです。幼稚園には先生がいます。ところが太郎にとって先生というのはこれまでの生涯に医者しかない、白いおべべの先生と云う言葉のために、欲しいお菓子もやめさせられたのです。幼稚園へ行って見たら先生がいてしかも白いものを着ていて、見馴れぬ小さい子供たちが口々に先生先生と云っている。太郎の満身に汗が出た心持も分る。大いに同情いたします。しかし私は大変おばちゃん根性をもっていてむっちりしていて、而も勇気のある、リズムのある少年太郎を大いに待望しているのだが、どうも。子供は子供自身のものをもって生れて来るから仕方がない。ヴェトウヴェンはオットウという甥をもっていて熱愛した。甥はぐれて、生涯伯父に厄介をかけました。が、その手紙に曰く、伯父上あなたは実に立派で実に偉大な人間の愛情をも持って私に対して下すった。けれども、私の生れつきに対してあなたは余り正しすぎ立派すぎ美しすぎ、自分に迚もその真似は出来ないと思うことから私はよけいに下らないわるいものになった。もっと下らない平凡な伯父であったら、私は平凡ではあってももうすこし世間並に暮したでしょ
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