六芸社から送ってくれました。主として、はじめのひとがやったらしい。読んだらお送りして見ましょう。茂輔さんの『あらがね』も送って見ましょうか。スノウの本はすこしお待ち下さい。
 寝汗せは例外として出るのでしょうね。どうか呉々お大事に。これから夏にかけて、又十分気をつけましょうね。私の盲腸は、はと麦と玄米と黒豆とを煎《い》って挽《ひ》いたものを煮てのむことで大分つれなくなりました。では又。寿江子のことを書くのを忘れた。この次、別に何でもないけれども。

 四月三十日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕

 四月三十日  第二十一信
 さあさあと水道を出して洗濯ものをゆすいでいる音がしている。風呂場では水道の栓が来ていないから流し元でやっている。風の音が裏の電車の響を運んで来る。そしてすっかり障子を閉めていても、裏の北窓から見える青い空と気の遠くなるような欅の若葉の青々とした色と重みとがこの紙の上までさして来ているような心持。本当に初夏になりました。お体はいかがですか。やはり時々は寝汗が出るようでしょうか。どうか御大切に。リンゴをよく召上れ。よくすっかり噛《か》めば腸にももう大丈夫でし
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