ありがたく感じている心をうけて下さい。このことは当座の役に立つきりのことではなくて、何か生涯の一貫性のことですから。芸術家としての。
 私たちの経済については、すっかり貴方の仰云るとおりにしてやってゆきます。そしてすぐ又つづきの仕事に着手しますが、もう十日ばかりは辛棒して下さい。ひとの好意に対する私の義務というものもあり又そのひとが他に負うている責任もあり、それだけはさっぱりと果すのが本当だと思いますから。
 貴方に指されて、わかり、わかろうとする誠実さをもっているというのが、せめても私のとりえであるけれども、私とすればちっとも威張れたことではない。人間の出来ということについても考える。随分身も心もしめて、いるのだけれども。そして、そう考えると涙がこぼれる。出来が粗末なところのある人間だと考えると、大変悲しい。いつでも。最も重要なことが、人生について、芸術について見とおせるような実力のあるものになりたいと思います。
 この間、私は何かつべこべ云ったようで心持がわるいけれども、あの折の心持で、何だかすっかり主を従にしていると思われているのではあるまいかと、びっくりした心配な心持になったの
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