から見ると壁のあたりに樹も見えないが、花なんかやっぱりあるのでしょうね。ヨーロッパと東京にこの頃肺気腫の患者が殖えて来る傾向なのでしらべたら、アスファルトの微細な粉がいつか肺を刺戟して、そういう病にかかりやすくなるのだそうです。一日に地べたを踏むことがない人、いつもアスファルト道しか歩かない人は、一生のうちよほど体を参らすらしい。ひどいものですね。郊外に住むということが益※[#二の字点、1−2−22]贅沢の一種になるわけです。
 先ずお父さんの御様子から。昨日お母さんからお手紙が来ました。実にいいあんばいに熱もすっかりなく、医者(秋本ですが)も大丈夫と云ってびっくりしている由。食事は朝牛乳一合、おひるおかゆ一杯お汁、おろし大根とさしみ。夕|略《ほぼ》同じ。衰弱もお回復で「血色もまことによくなりましたから決して御心配下さいますな」そして食事の外は「いつもおとなしく休んでおります」「顕治にも心配せぬようお伝え下さい」とのことです。
 島田の方はお医者様が何人か出征して、五ヵ村に秋本さん一人です。その医者で御なおりになったのですから、実に万歳ですね。私は殆どびっくりするほどであるし又しんから
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