黷ツだけがどこにも入らない。Tちゃんが目白へかえって来たとき、おや洗面器をもって来たのかしらと思って見た風呂敷包みの恰好そっくりのものを又小母さまがこしらえて、後生大事に膝にのせておかえりです。靖国神社の臨時大祭には(十九日)二百万の人出であったそうで、私が外苑や銀座を御案内したら、銀座の風景は全くふだんとちがっていて、黒紋付を着て、ホオに白粉をつけ、胸に遺家族のマークをつけた若い女のひとなどが、式服の白羽二重の裾からいきなり桃色の綿ネルを出して上ずった眼付で歩いているのに沢山出会いました。機嫌のよくない表情でいる。なかなか目にしみつく情景でした。大抵の女のひとが若い。実に若い。汽車の中にもそういう人々が何人か居りました。顔を見くらべると年よりに似た人が多い。兄とか良人とかを失い、実の親とつれ立って出て来ているのですね。
 そういう汽車の中に、小母さまとTさんが向いあいに席をとり、睦じいような、そうかと思うと小ぜり合いをしてフッと両方で気分のはぐれるような調子で発車を待っている。例えばTちゃんが洗面器のようなカンカン帽のつつみを見て笑いながら、又来年かついで思い出すさ、というようなこと
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