が着きました。私がゆっくりおきて、下へ行ったら「顕治が手紙おこしましたで、すっかり、ように心持よう書いておこしました」と云っていらっしゃいました、私も拝見しました。家じゅうがよんで、時には、あの電報など伝さんという人(古くから出入りしていた人ですって)にまでお見せになりました。
 お母さんもずっと御元気です。きのうのように大荒れに雨が降ると、ああきょうのような日でなかってよかったと云っていらっしゃる。永い間の御病気でしたし、かねて御覚悟のあったことだし、せめて隆ちゃんがいてよかったし、お苦しくなくてよかったし、お心のこりはないわけです。でも急にひまがお出来になって、今はあれこれとあとの始末でおいそがしいが、私としてはそのお暇が可哀そうです。良人というものは、他の何人によってもかえられないものを持っている、母としての面は発露されても妻としての面の心持はおのずから別であるから、私は又その点を深くお察しいたします。ましてお父さんはああいう方で、妻としてのお母さんの思い出は実に激しいものがあるのですから。
 ハガキに書いたように、私は三十五日がすむまでいることにしました。お母さんがその方をお望
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