ホなかった、そちらでの病床の気持について、新しく感じました。実に大したことであったと思います。いつかいつかのお手紙に「知らないで安心していたこともあろうし、知らないで心配していたこともあろう」とあったのをハッキリ覚えて居ります。前の方が実に多いことですね。それでもすこしは丈夫になっているので、熱もこの位だしするのだろうと思っている。益※[#二の字点、1−2−22]病気がきらいです。本年は殆ど病気らしいことはなかった(夏ごろのあやしい工合はともかく)
 よく気をつけて居りますから、どうぞ御心配なく。栄さんは私へのお歳暮に毛糸のショールをあんでくれました、それをまいて通うように。あなたへのお年玉はまだ秘密。ありふれた、実際的なものではありますが。では又

 十二月十五日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕

 十二月十五日  第八十一信
 けさ十二日づけのお手紙着。ありがとう。「パニック的な日頃の手紙」というところでは何だか笑ってしまいました。全く相当のものですものね。でも、この風邪のおかげで、私はやっと一歩前進をとげ、パニック的なるものの本質をとらえることが出来るようになっているから、大丈夫だし、或意味では、パニック的なものも将来遠くなく一層高められた調和へ到達し得るでしょう。
 お見舞本当にありがとう。特に最後の一句は、顔と体とがポーと熱くなるような感じで頂きました。それは、わかって居ます。そういう場面を想像すると、嬉しく、そしてすこし極りがわるい。私は自分の病気については、実に誇れないと思っているから。反対に、位置をかえた互の姿において想像すると、やっぱり平静に思い描くことは出来ない。どんなに私はあらゆる種類の薬[#「薬」に傍点]をかたむけて、あなたに注ごうと熱中することでしょう。私は決してわるい看護婦ではありませんから。
 さて、きのうは、濛々《もうもう》たる砂塵も車のおかげで無事に、かえりました。ちっとも熱も出ず、昨夜は初めてずっと六度八分で、大層気分よく、安眠しました。今朝も六・五です。平常は、時に眠りの足りない気分のときもあります。自然のことながら、床に入ってすぐ眠らず、益※[#二の字点、1−2−22]頭脳活溌というときもありますから。でも、十時以前には、もう迚も風邪ででもなければ床につけず、朝おそくなるまいとするし、夜眠れないのがいやで昼寝せず。この間うちのように日中歩きまわる用の方が多いと、くたびれかたが、机に向っての一日と異って、眠る時間はややすくなめでももつらしい様子です。但、朝すこし眠り足らず寒い気分はかぜのもととわかったから、これから七時にしましょう。それよりダラダラくり下げということはありませんから、御安心下さい。今は、別よ。今は暖く日が入るようになってから、起き出して居りますから。
 自分でやることについて。その通りです。あの時は全く閉口してしまった。私出歩きつづきでしょう? すべての小包発送まではいつも全部自分でやって居ります。留守の時間、日に乾す位のことは、お久さんにとってもあたり前の割前ですから。お久君の責任だとは云えもしないで閉口と首をちぢめていた所以です。
 住宅問題をよみはじめていること、前の手紙に書きましたが、これも亦、大いに教えます。これは、問題のそもそもの意味、扱いかた、正しい理解において問題はどこに問題をもっているかということについて考えかたを示しているから、大変面白い。プルードンが、何故住宅問題をとりあげるかという、その動機の分析は、有意義です。これから哲学に行き、そして経済の本二冊に進みましょう。

 そして、私は外出出来ずにいる間の一つの仕事としてこういう日常の手紙とは別に、この間から思っている一つの研究を書いてお送りします。これまで書いた夏以来の手紙とは、全く違った態度が自分に生じ、やっとこれらの諸課題の扱いかたがわかり、こういう風でなければ結局、底は突き得なかったということも会得されました。それは手紙であって、而も手紙でないようなものになるでしょう。私が自身について眺め得る最深の観察と客観的な追究の可能が自覚されて居ります、かくて、私の思考力は最も真面目に発揮されるであろうし、私たちの結びつきの並々ならぬ意味も活かされるであろうし、各面から、決して成果なくはなかろうと期待いたします。あなたの、こわい、こわくないということも半ば笑い声で、半ば本心で互の間にかわされて来ましたが、こわいことは当然で健全である部分と、私に[#「私に」に傍点]こわく感じられるということに、或私としての問題もあるのです。そういうこともこまかく考えて見ます。なかなか興味つきぬものがある、心というものについて。又愛情というものについて。くれにふさわしく、私はやっと本式の笹箒《ささぼう》きをこしらえ
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