ウに心から感謝いたします。このすーっとした心持の手紙を書いていると、この間うち書いたいくつかの手紙を思いおこし、そこには一生懸命さと共に一抹の不安、どういうのかしら? というものが漂っていたことを感じます。
とにかく土台のところでは十分承認されているというこの心持。これによって私は生かされているのだし成長もして行くのです。私の精髄的なものが、ここにこめられている。これで、私は今年の冬も愛らしい、春のような冬、我々の冬として暮して行ける自信にみたされました。もう今から、特別な心で眺めて待っている月の色、一月に入れば、次第次第に輝きをまして、一夜恍惚たる蒼い蒼い光りに溢れる月に向って、一層新たな歓喜の挨拶を送ることが出来ます。
これから段々事務的な用も多くなるでしょうし、あなたの用もおふえになるでしょうが、それにつけても、よかったことね。私はこのうれしさで、勉強もしんから身につき、与えられる助言の実現努力に骨惜しみしない自分を約束しながら、あなたの手を執り、それを胸において、更にわが手を重ねます。
十一月二十一日夜 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕
十一月二十一日 第七十二信
きょうはちっとも風がなくて静かでいい日ですね。表を送るのには、明日手紙書いた方がきりがよいのだけれども、かきたいから。『支那統一の時』本当に御免下さい。私が風邪だったので、渡して二階に上ってねていたので、ポケンの本領発揮してしまった。箱をあけたら(包紙入の)出て来たので、思わず私が「ひさ、これなんだい!」とやったので、小さくなって悄気てしまったが、私はフンマンおさまらず、家にいるとつづけて爆発するから、小包二つ抱えて出て郵便局へ行ってしまった。そういう工合でした。着くわけはなかったのです。
さて、島田へは雑誌や本、それに中村屋の、いつかお送りして気にお入りになった豆の菓子お送りしました。おせいぼはもうスタンドにきめてあります。炬燵でゆっくり何か御覧になったり床の中で見たりなさるのに便利なようなの。この頃は、日本趣味のスタンドが出来ていますから、そんなのをお送りしましょう。
てっちゃんには、あの図書の尾崎からと、前に云っていらしてなかった分とを皆書きつけてたのみました。
支那語の字典。あれは不十分だと思われます。画で引けるのでないと、発音がわからない字もあるわけですから。尚文堂のはラジオの支那語講座テキストの裏にまで広告出しているそうですが、大分財政窮迫と見えて、本にはなりません。文求堂のだけで、第一書房のは改版中の由です。『日華』はおなぐさみ迄に、と思ってつけ加えました。あれにしろ半ば無意味ですね、発音が分らないのだもの。
『日ソ』というポケット型の字引もあのとき見ましたが発音はむずかしいと見え、ローマ字でひどいことをやって居りました。支那語も発音はむずかしいのでしょう。よいのが見つかる迄ともかく一時御用立て下さい。
偶然のことからドイツ語の学力大いにある一人の女のひとを知りましたので、あなたのドイツ語向上のために、何かいい字引(文法つきの)を教わることにしました。そのひととは多分二十三日、一水会の展覧会で会い、字引のこともきけるかもしれません。
『仏和』は本日あたりお送りいたします。
岩波総目録のおしまいの本ね、あれはもう出しません。古いのでもないでしょう。しかし私は幸白揚社があの著者の重要著作選集を出しているのを皆もって居りますから、その中にはきっとあるでしょう。「その他」の他がどれなのか分らなくて閉口ですが。もしかしたら誰かもっているかもしれない。
十九日(土)には、待ちぼけでいらっしったのね。十二時迄と思ったのですって。朝、あぶないナと思ったのですが知らす間もないと思っていたらやっぱり。
金曜日は実に面白かった。あれから神田へまわって東京堂へゆき字引などいろいろしらべてフラリと出て専修大学の方向へ行っていたらとある額縁屋の中でチラリと動いた女の姿がどうも光子さんそっくりです。一水会の出品に十五日以後出京とハガキが来ていたし、往来に立って見ていたら、体つき反っぱのところ黒くてやせて、しかし何か美しいところ、まごうかたなしだから入って行って、知らん顔して並んで立っていたら、額ぶちから顔をあげて、アラーとかじりついた。大笑い。それから一緒に家へかえって、御飯たべて、喋って(未来派のこと。絵に、動き[#「動き」に傍点]をとらえるのはどこでとらえるかというようなこと)。未来派は、一つの物体がその面に反映させているもので、その周囲を語り、或内容を語らせようと試みた。マツァは未来派は技師の世界から生れたもので汽罐車や速力やをとらえようとしていると云っているというので、それは技師の心となど云えないこと、未来派左派が詩で鍛冶派《ク
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