々《ふんぷん》である。さて、その元となっている物語と、同じ時代のウェイルズの伝説の文章とは実にちがって面白いのです。マロリーは騎士道という観念で書いているのだが、ウェイルズの伝説は、民衆の富とか、公平とか、物の考えかたをこまかに具体的に出していて、つまり常識が日常生活の中で作用しているとおり出ていて面白い。着物だの、食物だのいろいろを、素朴で現実的な山国人らしく観察していて面白い。昔のその地方の一般人の感情がはっきり分る点が面白い。いろいろと面白いことがあるのですが、それは又いずれ。
桜が咲いて、風だの雨だのがある。花に風というと皆は今日思わず笑うが、特に関東地方では全く、花は風にもまれるために咲くようですね。フィリップという作家の祖母は乞食だったそうです。フィリップはそういう祖母をもったもう一人の大作家と余り年代がちがわなかった、ちっとも知らなかったけれども。では又。お大切に。私は七日頃に行こうと思って居ります、お目にかかりによ、島田ではなく。
四月十日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕
四月十日 第十七信
七日には妙なべそかき顔をお目にかけてすみませんでした。全くの愛情と正当さから云われたことだのに、あんな顔になってしまって、さぞ当惑なさり、おいやだったでしょう。御免なさい。
あの日は、前日からいろいろと何年も前の日や夜のことを思っていて、感情がそのように傾き、心持が皮膚をむき出していたところへ、本のことや何か、大変苦しく感じた上だったので、思わず、そっちの感じがこみ上って。何年めかに私のべそをかいた顔を見せて、やっぱりあの上気《のぼ》せた顔が、貴方の目にのこっているでしょうか。話が短い時間のために、一面にだけ区切られ、そうは分っていても、出た面だけがともかく一応その日からこの次お目にかかる迄目の前にちらついていて、何だか苦しいこと。私はその点では全くいくじがないと思う。あなたの目つき、顔つき、肩のありよう、そういうものが、感覚的に苦しい。貴方が不本意であるというそのことが、既に切ない。
お話のことは、その本質の深さや正しさや意味の含蓄が、非常によく分りました。
せき立てられるようにして聴いたり喋ったりしていた時とは比較にならずよくかみこなしてわかって来ました。私としては主を従にして考えたつもりではなく、確にあわてたこともあり、且、永
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