rを出している。「どうもこれじゃ応接間をつけたところで……」と留守の間に云っていた由です。一寸ついている竹の袖垣をその形ごとはずし、ジャッキでギューと持ち上げて四本の柱の根つぎをし、あっちこっち家が真直になったために壁が落ちて、夕刻は大工の方はおしまいというスピードでした。
 何という日本の家の便利さ(!)でしょう。何たる積木《つみき》如きものを建物と称すことでしょう。土台五六寸新しい柱を立てて、ジャッキで家ぐるみもち上げていた柱をストンとおとして、自然の重量で、くっついている。クサビもなければ、かみ合わせもない。そういう柱! で支えられている、この地震国の家。家をハウスと訳すのみならず、ホームでもあるし、命の箱でもあるし、私は手早さに感歎すると同時に、アナトール・フランスが「昔物語」で云っているような都市の歴史的な豊富さ、住宅の持つ歴史的内容というものが、こういう建物で間に合わせて雨露を凌いでいる習慣の中には、決してその興味ある堆積をなし得ないのを、実感しました。ゲルツェンの家を作家クラブにもなし得ぬ。卵橋(ポンヌフ)の河岸につらなるパリの十六世紀からの住居の美もあり得ない面白いものではありませんか。感情のアシの短かさ、厚さの浅さ、ニュアンスのうすさ。アメリカ材だと、この家のように十年経つと木がひとりでにくさって来るのですって。(この家どこもかしこも米材なり)都市としての江戸の形成の過程と東京の変遷を考え、一種異様な感がします。昨今、王子に近い志村の町に工場がどっさり建つ。その地形《じぎょう》のために泥をナラす。下から出て来るのは竪穴の住居遺跡です。やっと農業がはじまり、竪穴が集まって聚落《しゅうらく》をなしかけた時代。沢山の土器、鉄片の少々などが出る。そういう土の上は、昔ながらの方法による畑であったのが、いきなり最新式工場と変りつつある。畑の野菜は腐っている、ガソリンが少くてトラックで運べないから。私たちは百匁十五銭のトマトを買っている。(大きいの一ヶです)実に錯綜した線ですね。
    ――○――
 今何をよんでいらっしゃるかしら。私は体に力が湧いて来た感じです。大事にして、来月からはすこし仕事はじめます。こういう力のある健康感、ぱっちりみ[#「み」に傍点]のいった感じ。うれしい。胸のはり出すような。二十三日に出した手紙に計温かいたから、これにはやめます。九月
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