盾閧ワす。あすこには林町になど全くなかった生活の空気がある。
あなたが少年の時代から御自分の周囲に感じていらしったものと、私の周囲にあるものとは、社会での場処がちがうとおり質がちがっている。あなたの経験していらっしゃるものの中には(家族的に)皆察しのつく、そしてその条件ではやむを得ないと理解され得る質のものです。
私はあなたが周囲に対してもっていらっしゃる思いやり深さやさしさを殆ど驚く程ですが、あなたにはそれが可能な根拠がある。
虹ヶ浜へおつれしようという話も、かえる頃には不可能らしいとわかりました。お后さまは家をお離れになれないし、お父さんにはお后さまは不可欠である。そして店も。やはり活動の圏外にいることはおいやなのです。動かし申すだけ疲れるだろうというようなことで。――夏は葭戸でもこしらえ、新しいきれいな蚊帖《かや》でもあげようと思います。そして秋またゆきましょう。これは親愛な笑話ですがよくよく覚えていらして下さい。私が島田へゆくときあなたのお手紙で、ユリも暫く滞在したいと云っている云々とおかきになった、お母さん方の時間の標準で暫くと云いゆっくりと云うのは最少限一ヵ月なのよ。
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