チて。
貴方は、蔵の前の漬物小舎をこわした話、前の手紙で書いたこと覚えていらっしゃるでしょう。あれが新しく建ったそうです。台所口から庭へ出たところにイチハツの花があるのを覚えていらっしゃるかしら。その花が白く咲いたそうです。その花や、大きな茂みになっている赤いバラの花が、今年は広々としたガラス障子越しに見えるわけですが、その障子にガラスをはめた人は、ほかならぬあの縁側のところから、往年泥棒と間違えられて貴方におっかけられた人です。何という罪のない可笑しさでしょう。何と思ってあすこのガラス入れたかしらと思って。その夕方(何年か前の)中気になったお婆さんがあったでしょう? そのお嫁さんが今病気全快して店にいて、帰りに柳井まで一緒に話しながら来ました。
顕さん顕さんと云って皆が私に話します。(タオルもってお辞儀して後は)そして、私は東京のお后《ゴー》さんよ。いつか達ちゃんがお父さんに私をさして「あれだれで」ときいたら、お父さん何とも云えない笑顔で、「ユリちゃん」と仰云った。でも私をお呼びになるときは「東京の、ちょっと来て」です。「お父さん、面倒だからお后のかわりにおユーとおっしゃいましよ
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