ノする。「ハイ、どうもありがとう、二銭のおつり」爺さんやっこらと腰をかけ、バットをぬいたがマッチをもっていない。「マッチがいりますね」わきの棚を見ると、マッチが沢山ボール箱に入っている。「ハイマッチ」「いくらです」見ると一銭とある。ユリ何心なく「一銭だが、マアいいその位のもんだからつけときましょう」「ハア、それはどうもありがとう」爺さん満足してかえる。ユリ、のこのこ中の間の方へ来かかりながら、オヤ、アラ、と気がついて、あああのマッチは売りものだったんだ、一銭だってとらなければいけなかったんだ、と気がついたときは、もうおそい。バット一ヶは利益八厘でしょう、一銭のマッチをつけては二厘損したわけになる。ユリ、ひとりで襖のかげで口をあいて笑ったが、お父さんにも母さんにも云う勇気なし。以上、傑作お嫁の商売往来、秘密の巻一巻の終り。
一巻の終りと云えば、島田へ野天のシネマが来て、二人と多賀子と野原から来ていた冨美子をつれて宮本武蔵を見にゆきました。島田では『大阪朝日』をとっています。そこに学芸欄というものは殆どないの。武蔵や連載小説が、関心の中心です。地方文化ということについて非常に考えた、又私
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